- 24季 Stabilized Wood Works 代表
- 近藤 周平
木材のぬくもりに彩りを。
注目の新素材スタビライズドウッド
日用品の卸会社に勤めていた頃、海外市場向けの商品を探る中で、美しく装飾された「柄」を持つ包丁の人気が高いことを知る。それが、天然の木材に特別な樹脂を含浸させて製作するスタビライズドウッドだ。一つ一つ異なる色合いや木材の新たな可能性に感動し、スタビライズドウッドを自宅でDIY。新規事業として会社に提案するも採用されず、それなら自分でメーカーになろうと一念発起。2022年、和を感じる淡い色のスタビライズドウッドを販売する「24季(ニシキ)」を立ち上げる。素材のネット販売だけではなく、雑貨の提案、作家とのコミュニティーづくりを通じて、スタビライズドウッドを日本中に広げる活動を展開。
失敗も成功も分からない世界への挑戦。
スタビライズドウッドに私が出会った頃、日本にはその情報が全くありませんでした。今でこそ世間の認知度が上がってきましたが、当時はインターネットにも情報がなく、実際に取り扱い知識を持っている方も一握り。でも私は「なんとしてでも作りたい」という強い思いから、海外のホームページにアクセスして情報をかき集めました。海外留学の経験もあり読み解くこともできましたが、翻訳ツールも活用しました。
知識を仕入れた次は機材と材料集めで苦労しました。最初から専門機材を買う余裕はなかったので、身近な家電で代替しました。サイズによって異なりますが、約100度で3~6時間熱を加え続ける必要があり、そこでは家庭用のオーブンを利用しました。調理用なのでタイマー設定できる上限の時間が決まっておりタイマーが切れるたび都度加熱を行いました。また材料となる木材や染料は海外から仕入れますが、紛争等による海外情勢の変化で、輸入がストップするという憂き目にも遭いました。
「何が失敗で何が成功かも分からない。自分で確かめるしかない」というところから始まったスタビライズドウッドの製作ですが、染料の配合から漬け込み時間、熱処理時間に至るまで試行錯誤の連続です。材料は天然の木材なので、同じことをしても同じ結果になりません。完成までの数日間、色の入り具合を工程ごとに細かく確認しながら作業を進めました。技術的には困難なことも多くありましたが、その一方でそれを乗り越えることが楽しいとも感じていました。液体樹脂や染料を保管している部屋で寝起きすることも。そうした数々の失敗を経て、自分の理想とする淡い色を表現できるようになりました。
創業すると「こんなことは想像していなかった」「うまく進まない」の連続です。そんな中でも「続ける」ことが大切です。スタビライズドウッドの製作方法を確立するまで、諦める理由はたくさんありましたが、めげずに続けてきたことで理想が現実のものとなり、作家さんの元へ商品を届けることができています。
スタビライズドウッド製作に適した豊栄。
創業時には、徹底した場所選びも大切です。私の場合、約1年かけて今の作業場、東広島市豊栄にある蔵付き古民家を確保できました。
木材を染める溶剤は、温度管理が大切です。理想の温度は5~30℃で、寒すぎても暑すぎてもいけません。その点、古民家の蔵は、ある程度一定に温度を保てるので溶剤を扱うのに適しています。
他にも、木を削るときに出る粉じんや音の問題もあり、隣家と離れている必要がありましたが、そこも全く問題ありません。スタビライズドウッドの製作にとって「豊栄」という場所が想定外にぴったり当てはまりました。
ただ、いきなり今の作業場を見つけて購入したわけではなく、すぐ近くの友人宅に居候しながら、試験的に製造を行いました。昨年の暑い夏を無事に乗り越えられたのが、最終的な決め手でしたね。
また最初は賃貸でお借りしようと考えていたのですが、製作環境も自由にカスタマイズしたかったため、賃借条件を交渉するのを諦め、思い切って購入しました。街中では手が届かない物件も、ここでは選択肢になり得ます。
古い建物なので修繕が必要な箇所がありますが、畳などの内装資材を知り合いから譲っていただいたり井戸の修繕方法を教わったり、地域の方の協力を得ながら、理想的な製作環境を手づくりで整えています。
こうした特殊な条件に限らず、創業時の場所選びというのは大切な要素ですね。妥協が生まれやすい場所選びですが、商品やサービスの質に直接影響するので譲りたくないポイントです。また意外なところから適地が見つかるということもありますので、常にアンテナを立てご縁を大切にすることも必要です。
スタビライズドウッドの美しさは作品ありき!?
スタビライズドウッドは、「素材」としてインターネットで販売しています。しかしスタビライズドウッドの魅力である美しい色合いは、仕上げにより印象が大きく左右されます。ですから素材の写真をそのまま掲載するだけでは作品のイメージが湧かず、すぐに購入とはなりません。仕上がりの色合いに近くなるよう、素材をぬらした写真を掲載するなど工夫しましたが微妙に異なりました。
そこで私自身が、スタビライズドウッドのペンを製作し、販売することにしました。素材と一緒にその完成品もネットで見られるようにすることで、作家さんにもイメージが伝わり購入の増加へとつながっています。
近藤氏が自ら製作したペン。表面がコーティングされ、1本ごとに異なる木目が美しく浮き上がる。
「作品のイメージを持ってもらうこと」の大切さは、他の場面でも感じました。スタビライズドウッドの柄が付いた和包丁を作りたいと思い、包丁職人さんと一緒に協業したときのことです。制作前は「どんな感じになるのか想像できない」と少し不安そうでしたが、出来上がった作品を見たときに「こんなにも美しいのですね」と驚かれていました。美しさに驚いていただいたことにうれしさもありましたが、製作前にもしっかりと作品のイメージを持っていただくことが大切だと気付きました。
私は「良い素材屋である」ということを意識して、クオリティーの高い素材づくりに注力していますが、それだけではなく、その先の作品イメージを見える化して提案する工夫が大切だと知りました。他の商品やサービスの販売でもきっと重要ですので、創業される方は意識されるといいと思います。
これからもスタビライズドウッドの魅力を広め、多くの作家や職人の方と、美しい作品を作っていきます。
事業所名 | 24季(ニシキ)Stabilized Wood Works |
---|---|
所在地 | 〒739-2315 広島県広島市豊栄町吉原4767-1 |
連絡先 | |
ホームページ | https://nsk24sss.base.shop/ |
創業 | 2022年 |
従業員数 | 1名 |
業種 | 製造・販売業 |
事業内容 | ・スタビライズドウッド製造・販売 ・スタビライズドウッド製造用液剤販売 |