ゼロから踏み出すのは本当に度胸が必要。
でも、やらないことには舵取りの加減も分からない。

  • PROFILE
  • 大学時代、仲間たちと共に宮島で人力車による観光サービスを展開する。その縁がきっかけとなって、大学卒業後に伊都岐珈琲1号店を宮島の町家通りにオープン。現在は宮島島内と対岸の宮島口に5店舗を出店。2017年春からは西区にオープンする商業施設内で、フレッシュな焙煎コーヒー豆を販売する小売店舗もオープンする予定。

教えて先輩!創業でつまずくポイント、乗り越えるコツ その1
若い感性が武器となる業種は、スタートを早く。

大学卒業と同時の起業に後悔はない。
時には若さが強みになる業種もある。

 創業は大学を卒業した2006年の秋のことです。学生の頃から独立を視野に、アルバイトをしながらコーヒーの勉強をし、コツコツと開業のための自己資金をためていました。宮島に出店したのは、大学時代に友人たちが、人力車の個人事業を立ち上げたのがきっかけです。自分も毎週宮島に通い友人の事業を手伝っていたので、島の皆さんとご縁を結ぶことができました。「自分も独立したいんです」と相談したら、「それならウチの空き家を使うといいよ」といった具合に話が進み、宮島の町家通りに1号店となるカフェをオープンすることになりました。
 その時、用意できた開業資金は800万円ほど。内訳は自分の貯金が300万円、家族からの援助が200万円、そして政策金融公庫から300万円を融資してもらいました。大学を卒業したばかりで、何の実績もない自分が政策金融公庫からお金を借りられたのは、大学の恩師が商工会を紹介してくださったおかげです。自分が所属していたゼミは、未来の起業家を養成することを目的としていたので、恩師には心構えの面から実務面のことまで、あらゆることで助けてもらいました。特にフォーマット化された事業計画書は涙が出るほどありがたかったですね。
 しかし開業資金は用意できたものの、最初の頃は運転資金まで残す余裕はまったくありませんでした。今思えば設備投資としてもかなり少ない方だと思うのですが、そんなことを言っていたらいつまでたっても開業なんてできませんよね。とにかく当時は、開業することが最優先でした。用意万端で臨むことも大切ですが、ビジネスにはスピードを優先させた方が良いケースもあります。特にカフェ経営の場合は、若い人の心に響く店を開こうと思ったら、年をとってからじゃ遅い。そういった意味でも、卒業と同時に起業して良かったと実感しています。

教えて先輩!創業でつまずくポイント、乗り越えるコツ その2
大手と競うには、エッジの効いたブランディングを。

大手に負けないブランディングの秘訣は、
こだわりにとことんエッジを効かせること。

 僕が店を出したいなと思った頃は、いわゆるセカンドウエーブ(*注)の流れに乗って、大手コーヒーチェーンが運営するおしゃれなカフェが街にあふれ始めた頃でした。そんな中、個人の店舗が活路を見い出していくには、かなりエッジを効かせた方向で、ブランディングを図っていくしかありませんでした。それが生産段階からしっかり管理された“スペシャルティコーヒー”と、豆の個性を考え抜いた“自家焙煎”だったわけです。やがて来るサードウエーブ(*注)とも相まって、僕らのスタンスにたくさんのお客さまが共感してくださり、2店舗、3店舗と事業を拡大することができました。
 今振り返ると、創業当初にサードウエーブの流れが来ると予測していたわけではないのですが、あの時もしも開業していなかったら、この流れには乗れていなかったでしょうね。今から始めても、もう遅い。やはり開業することに優先順位を据えて、あのタイミングで店を持てたことが功を奏したと思います。
 これからカフェを始めたいという方にアドバイスするとしたら、まずは自分のやりたい方向を見つけて、とことんそのこだわりを研ぎ澄ましていくことです。例えばベジタブルプレートを出すなら、店ごと農家のある生産地へ移っちゃうくらいの発想があっても面白い! すでに“やりつくした感”があるマーケットでは、相当エッジを効かせなければ、時代を先取りできないと思います。
 僕らの店にしても、フレッシュで高品質、それでいて求めやすい価格帯の商品を打ち出すために、より生産地に近い業者さんに協力をお願いし、強みを伸ばす努力をしています。飲食業はオープンするまでは大変だけど、それでも店づくりそのものは楽しい作業です。しかしオープン後の「経営」にこそ、本当の苦労が待っています。

* 注: 3つの流れに区分されるコーヒー業界の歴史。大量生産・大量消費を象徴する1960年代までをファーストウエーブ、1960年代に誕生したシアトル系コーヒーチェーンに代表される深煎り高品質の豆が人気を博した時代をセカンドウエーブ、そしてここ最近のスペシャルティコーヒーブームをサードウエーブと呼ぶ。
教えて先輩!創業でつまずくポイント、乗り越えるコツ その3
人を雇い始めた時がポイントで、成長の分かれ目。

経営者として初めてぶつかった壁は、
最初に従業員を雇用したとき。

 自分の場合、経営面で最初の壁にぶつかったのは、初めて人を雇った時のことでした。それまで一人でやっていた時は、とにかく病気しないことを心掛け、1日でも多く1時間でも長く店を開けることで、収益を上げるよう努めてきました。しかし従業員に、同じことをさせるわけにはいかないですよね。休日や就労時間など労務上の問題もありますし、人が増えた分、しっかり収益も上げないとやっていけません。個人から組織になった時、初めて経営者という意識を強く持つようになりました。
 労務や税務などの知識を勉強したのもそこからですね。自分の場合、開業することが最優先だったので、経営者としての勉強やブランディングなどの本格的な経営戦略もすべて後付けでした。でも、壁にぶつかりながら得た知識は、本当の意味で血となり肉となっています。本当は起業前にきちんと勉強した方が良いのでしょうが、そのために起業のタイミングを逃すようならもったいないです。起業した後でも勉強はできるし、社労士さんや税理士さんなど、力になってくれる専門家もいます。修行を積まなければできないという業種じゃない限り、早く思いをカタチにして、それを維持する努力をした方が良いと思います。
 起業するということは、ゼロからイチを生み出すような作業です。ないものを生み出すわけですから、本当に予測も立たないし、度胸もいると思います。でも、やり始めないことには、舵取りの加減も分からない。すべて用意できてからなんて言っていたら、タイミングを逃すことだってあります。
僕自身もコーヒーブームや宮島の観光客増加などの後押しもあり、想像以上の成功を収めることができました。でも最初は、「500万円でカフェを開く」といった本をぼんやり読む程度だったのです。今は、建築図面を見て、ここに扉が、ここに空調がと必要なことが思い浮かびますが、最初は何も分かりませんでした。まずは優先順位を決めて、できる範囲内で起業するというのも一つの方法だと思います。

会社情報

事業所名 伊都岐株式会社
所在地 〒739-0588 広島県廿日市市宮島町413
連絡先 TEL : 0829-20-5106
ホームページ https://itsuki-miyajima.com/
創業 2006年
従業員数 25名
業種 サービス業
事業内容 コーヒーの販売、カフェ経営

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