“おいしい笑顔”が商売の原動力
本場ドイツの味を地元広島へ

  • PROFILE
  • 広島県広島市出身。学生時代よりベーコンやハム作りに夢中になり、知人に食べてもらっていた。卒業後、会社に就職するが、体を壊したのをきっかけに退職。自分の好きなことをしようと考え、神奈川県にあるドイツ製法のハム・ソーセージ専門店「厚木ハム」に就職。2年の修業を経て、念願の「食品衛生管理者(国家資格)」も取得。広島県へ戻り、安芸太田町でドイツ製法のハム・ソーセージの店、「グリュックスシュバイン」をオープンし、各種メディアで取り上げられる。2016年には本場ドイツで行われるハム・ソーセージの国際コンテスト(IFFA)で、金賞9品と銀賞1品を獲得。2018年に、現在の佐伯区五日市町へ移転。県内外にファンを持つ人気店として成長中。

教えて先輩!創業でつまずくポイント、乗り越えるコツ その1
ビジネスチャンスは希少な道にこそある!

遠回りした修業への道。
困難の分だけチャンスも大きい。

2013年8月に店をオープンしたので、今年でちょうど創業10年目になります。20代の頃からベーコンやハム作りにはまり、友達や家族に食べてもらったときに美味しいと言われることが嬉しく、自分の店を持って販売してみたいと強く思っていました。しかし、食肉の加工・販売には、実務経験2年と国家資格が必要であることを知り、そのハードルの高さに一度は諦めて会社に就職しましたが、体を壊して退職したのをきっかけに、「やっぱり好きなことをしたい」と考えるようになり、ハム・ソーセージの修業を決心しました。

修業にあたり、当時住んでいた関東近辺のお店を巡って、納得のいく修業先を探しました。ポイントは「味」と「接客サービス」。この2点です。味は言うまでもなく重要ですが、店を訪れる中で、味は良くても接客が良くない店があり、そこで接客サービスの重要性を強く認識しました。理想とする店を探し求めて食べ歩きを続けた末にようやく、神奈川県厚木市で嶋崎洋平氏が営む「厚木ハム」に出会いました。こちらのお店では、ドイツ伝統の製法でハム・ソーセージを作っていました。保存料や着色料を使わず、食品添加物を極力抑えた製品は、肉本来のうま味を生かしたものです。いろいろな店の食べ歩きをしましたが、どの店も自分の作ったものの方が美味しいと思っていました。しかし、厚木ハムを食べたとき、「この味はまねできない」と感じました。早速“ラブレター”を送り熱意を伝えると、一度遊びにおいでと返事をいただき、すぐに会いに行きました。
作り方を聞くと、塩加減といい、微妙な温度の調節具合といい、長年の経験から成る職人技が生かされていました。これには師匠のもとで、その技を体得するしかないと感じ、間もなくして修業が始まりました。
修業に入って2年後には、食肉の加工・販売に必要な国家資格「食品衛生管理者」を取得できました。この資格はそれほど受験者がいないことから、人数が達していないと講習が行われないような資格です。しかも、取得には受講料におよそ30万円、受講期間中の宿泊費など、もろもろを合わせると100万円はかかる資格です。学生時代に取得を諦めたのは、そんな背景からでした。
ドイツ伝統のハム・ソーセージ作りを学んだこと、取得が難しい資格を手に入れたことなど、希少な道を選んだおかげで、広島では珍しいドイツソーセージの専門店をオープンできました。始まりは大変でしたが、その分ビジネスチャンスには恵まれたと感じています。

教えて先輩!創業でつまずくポイント、乗り越えるコツ その2
不便なロケーションでもSNSやメディアを味方に

SNSを使った口コミ戦略で、
オープン前から固定ファンを獲得。

当時住んでいた関東では、ドイツソーセージを取り扱う競合も多かったため、地元である広島で店舗探しを開始しました。しかし食肉加工を行う場合、区分けした部屋を数多く用意するなど厳しい施設基準があり、物件を借りるのも大変です。その上燻製の煙も出るので、市街地に加工場兼店舗を借りるのは困難です。郊外を中心に探し、知り合いを通じて、安芸太田町を紹介してもらいました。

ところがいざ移住しようという段階になって、貸し借りを巡って二転三転しました。今振り返ると、当時は田舎への移住が珍しかったため、十分な体制が整っていなかったように思います。契約がうまくいかず、とても住める状態ではない空き家に案内されたこともありました。お店は何とか借りられたのですが、雨漏りのする建物。経費節約のため、できる箇所は自分たちで修理しました。家賃は年間3万円ほどだったので、そこはとても助かりました。
安芸太田町は自然豊かで良い場所の半面、私にとっては、商売する上で苦労する面も多い土地柄でしたが、SNSにオープンまでの様子をアップしていた効果もあり、わざわざ市内から来られる方がいたり、スキー客の方が常連になってくれたりしました。また“移住”や“ドイツソーセージ”のキーワードに興味を持ち、取り上げてくれるメディアもいて、宣伝に一役買ってくれました。当時はSNSが台頭してきた頃だったので、Web上の口コミ戦略をうまく活用できたと感じています。
一方、創業資金についても大変苦労しました。食肉加工は施設・設備ともに、とてもお金がかかる業種です。修業先の同期は、独立にあたり機械をそろえるだけで4500万円もかかったそうです。私は運よく修業先のつてで中古の機械を譲ってもらえたのですが、それでも1000万円はかかりました。
資金調達では、銀行から提案を受けて広島県創業融資制度を利用しました。創業資金に1800万円ほどかかり、銀行と金融公庫にそれぞれ500万円を融資してもらい、残りは自己資金で補いました。ただ創業するときに一番お金が必要ですが、開業届けなど融資の条件があり、少し不便に感じましたね。

教えて先輩!創業でつまずくポイント、乗り越えるコツ その3
コスト削減や人材確保のためには移転もやむなし

困った時の相談先は、地元の銀行!
地域の企業とのマッチングも支援。

現在の場所(広島市佐伯区五日市町石内)には、4年半ほど前に移転してきました。理由は「コスト削減」と「人材確保」です。
安芸太田町はもともと仕入れ業者の配送ルートにないエリアでしたので、材料が欲しい時にすぐ入るといった環境ではありません。その上、配送ルートでないため配送料が仕入れた肉に上積みされるので、どうしてもコスト高になります。さらに安芸太田町は冬に雪が降ると、交通が遮断されるのがネックでした。客足に影響があるだけでなく、仕入れに影響するのが痛かったです。

こちらに移転してからは、20分ほどの場所に仕入れ先の営業所があるので、欲しい時にいつでも材料が手に入ります。材料費も以前に比べて、1割以上を抑えられています。また、雪の影響も気にすることが少なくなりましたね。
人材の確保においても、人口の少ない田舎では働き手がなかなか見つかりません。今の店舗では7名がシフト制で働いています。創業当初からサービス面も重視していたので、私の意志をよく理解してくれているスタッフが心を込めて接客してくれています。
実は、移転する際に、まず相談したのは銀行です。自分なりに市場調査をしたところ、県内西部からの来店が大部分を占めていましたので、廿日市市あたりに狙いを定めて、不動産屋さんを紹介してもらいました。石内に場所が見つかったのはたまたまです。ここは調整区域でしたので、商業利用には条件がありましたが、不動産屋さんの協力によりクリアすることができました。メイン道路から少し奥まったロケーションも自分にとって理想的でした。
お店を移ったおかげで、商品の卸先も格段に増えました。売り上げも倍とまではいきませんが、それに近い伸びになっています。結婚祝いや出産祝いなど、ギフト利用が増えたのもこちらに移ってからです。
これから創業する方へアドバイスとして一つ言えることは、銀行を上手に利用することかなと思います。お金を借りる以外にも、銀行は何かと協力してくれるものです。私も不動産屋を紹介してもらい、ある時は燻製用のチップの仕入れ先を引き合わせてくれたこともありました。いろいろな企業と取引しているため、頼りになる存在です。ぜひ一度相談してみてください。
これからの目標ですが、私たちにとってお客さまのおいしい笑顔が何よりの励みです。今後も地域の皆さまに支えられ、愛される店づくりを行っていきたいですね。

会社情報

事業所名 グリュックスシュバイン
所在地 〒731-5102 広島県広島市佐伯区五日市町石内5842-2
連絡先 TEL:082-942-0860
ホームページ https://www.gluecksschwein86.com/
創業 2013年8月
従業員数 -
業種 食品製造・販売
事業内容 食肉の加工・販売、酒類販売

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