自律航行船による水上インフラで
人と島、地域をつなぐ。

スタートアップ
  • PROFILE
  • 1983年生まれ。カリフォルニア州立大学を卒業後、アップルジャパンを経て、デアゴスティーニジャパンに入社。「ロビ」をはじめとするロボティクス事業の責任者を務める。その後、バルミューダにて新規事業立ち上げを担当した後、テック系スタートアップを中心としたマーケティング・PRコンサルタントとして独立。海洋生物をこよなく愛する自称水族館マニアであり、マリンレジャーを趣味とすることから、マリンテックの可能性に引かれ、2021年3月にエイトノットを設立。離島が多く、穏やかな瀬戸内の海を舞台に、「あらゆる水上モビリティをロボティクスとAIで自律化する」をミッションに掲げ、離島の未来を変える自律航行技術開発に挑んでいる。

教えて先輩!創業でつまずくポイント、乗り越えるコツ その1
ビジョンづくりの葛藤が事業の継続力を生む

本当の努力は創業してから。
継続を支えるのはビジョン。

 もともと海やマリンレジャーが大好きで、海の魅力をもっと知ってほしいという気持ちから、マリンテック事業を核とするエイトノットを設立しました。事業拠点の一つに広島県を選んだのは、「ロボティクスとAIで自律化した水上モビリティ」の実証において、離島が多く海が穏やかな瀬戸内が、初期の性能実験に適していると判断したからです。メンバーの一人が、大崎上島の広島商船高等専門学校出身であったため、地元の情報に明るかったことも影響しています。「ひろしまサンドボックス*」の実施事業に選ばれたこと、実証実験で広島商船高等専門学校や、大崎上島町役場等、地元の全面協力を得られたことなど、さまざまなご縁にも支えられています。

 そうしたご縁が事業の可能性を広げてくれる一方で、スタートアップ時は、資金調達にそれなりの苦労が伴いました。なぜなら、ベンチャーキャピタルに出資を依頼するにも、まだ形になっていない事業に支援をお願いしなければならないからです。特に私たちが手掛ける自律航行の分野は、潜在的なニーズはあるものの、今はまだ説得力のあるビジネスとはいえません。出資者に理解を得るためのビジョンづくりにとても苦労しました。しかしビジョンを突き詰めることは、事業について深く考えることだけではなく、自分自身の覚悟を決めるのにもとても役立ちます。現在も、私たちのビジョンと取り組みが「本当に社会に必要なのか」「ソーシャルインパクトを残せるのか」を常に自問自答しています。問い掛けるほどに、経営者としての自覚が深まります。
 会社をつくること自体は、それほど難しくありませんが、大切なのは事業を継続させていくことです。しっかりとしたビジョンの構築と、スタッフ間での共有が重要だと思います。
 
ひろしまサンドボックス:AI/IoT、ビッグデータなどの最新テクノロジーを活用して、産業・地域課題の解決を目指す広島県の事業。同事業では、県内外から企業・人材を呼び込み、共創で課題解決に向けて試行錯誤できる実証実験の場を提供しています。

教えて先輩!創業でつまずくポイント、乗り越えるコツ その2
責任の所在を明確にして、決断すること

責任を負う経営者の覚悟が、
企業の決断力を高める。

 これから創業を考えている方にアドバイスするなら、一緒に事業を起こすメンバーの人選がとても大事ということです。当社の場合は私の他に2人の共同創業者がいますが、スタート時点では、この人選と人数がちょうど良いバランスでした。それぞれ異なる専門性を持ち、違った視点から議論を交わすことができるため、スピーディに事業内容を改善することができます。しかし、共同創業者との間では、所有株式の比率について、最初にきちんと話し合っておくべきです。例えば50:50では、お互いに譲れない場合、経営の判断を下せないケースもあり得ます。経営における責任の所在をはっきりさせるためにも、誰が株式を一番多く持つかは明確にしておくことをお勧めします。いつでも責任を持ち、いざという時には決断を下すことが重要です。一方、そういう局面で経営者はとても孤独です。創業を志すなら、前もって覚悟しておいた方がいいでしょう。

 さらに、創業時は最小人数で事業を行うことになるため、マンパワーが限られてきます。当社の場合、できるだけ効率的に会社の認知度を向上させるために、日頃から様々な場所で情報発信することを心掛けています。プレスリリースをはじめ、SNSやブログなどで、自分たちの活動を飾ることなく継続して発信してきました。これまでにさまざまなメディアで取り上げられたのは、私達の事業が社会的に意義のあることと認めてもらえた結果だと感じています。情報発信のコツとしては、物事を全て自分ごとで解釈し、端的に分かりやすく伝えるようにすることです。借りてきた言葉ではなく自分の経験に基づいた言葉で語るほど、説得力が強いものはありません。結果的にそれが、多くの人の心に響くメッセージになるのではないでしょうか。

教えて先輩!創業でつまずくポイント、乗り越えるコツ その3
イノベーションの種は現場にある

足を運ぶことで見える、
地域の具体的なニーズ。

 今後の事業展開についてお話しすると、2023年後半までには自律航行小型EV船によるモノを運ぶサービスを実現させ、2025年には人を運ぶサービスにまで発展させたいというマイルストーンを描いています。今年(2021年)の10月には、ようやく大崎上島・生野島間を行き交う自律航行EV船の実証実験がスタートする予定です。現在、生野島には14人の島民が住んでおられ、同島の住民は買い出しやゴミ出しのため、フェリーに車を積んで大崎上島へ通っているそうです。私たちの実験では、往路で日用品を生野島に届け、復路でゴミを積んで帰るといった試みを1カ月かけて行います。
 最終目標は、オンデマンド型の水上交通インフラを構築し、海を自由に行き交うことで離島と人の距離を縮めることですが、現地で実験を準備していると、これまで見えてこなかった具体的なニーズに触れることもできました。

 例えば、大崎上島の消防署には東広島から署員が派遣されて、船による救急搬送の任務に当たっていますが、署員の多くは任期が2-3年ほどのため、救急艇の操船に慣れた頃に署員が交代するそうです。そのため、自律航行の技術には大変興味があると伺いました。こうしたリアルな声を聞くと、自分たちが挑戦していることは、やはり必要なことだと勇気が湧いてきます。あらためて実際に現地に赴き、技術開発に取り掛かったことで、地域の未来を変えるイノベーションを起こせるかもしれないという期待が大きく膨らみました。
 これから創業を志す皆さんも、まずは自分の内なる声と向き合ってみて、後悔しない選択をしてほしいです。ゴールにたどり着くまでの道筋はさまざまですが、一つ一つ自分自身が納得する選択をすれば、後悔することはないと思います。勇気を出して一歩踏み出してください。

会社情報

事業所名 株式会社エイトノット
所在地 〒590-0986 大阪府堺市堺区北波止町10
連絡先 -
ホームページ https://8kt.jp
創業 2021年3月
従業員数 -
業種 システム開発
事業内容 水上モビリティの自律航行システム開発

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