思い立ったら、即実行!足を止めず、変化していく勇気を。
株式会社ヤマサキ 代表取締役

山崎 宏忠さん

  • PROFILE
  • 1945年広島県生まれ。1967年中央大学経済学部卒業後、生まれ故郷の広島に戻り、父親と同じ警察官となる。3年間の勤務を経たのちに依願退職し、1970年4月に創業。子どもの頃からの憧れであった経営者の道を歩みだす。訪問販売から資金を貯め、事業基盤を築き、1973年に株式会社を設立。その6年後には化粧品事業の核となるブランド「La Sana(ラサーナ)」が誕生。1998年に発売された洗い流さないトリートメント「ラサーナ 海藻 ヘアエッセンス」は、累計販売本数2,000万本を超える大ヒット商品になり、12年連続国内売上No.1を維持するなど、今も幅広い世代の女性から高い支持を得ている。

大手競合がひしめく化粧品事業において、徹底したサンプリングと口コミによる独自のマーケティング戦略で、広島から全国へと市場を切り拓いてきた株式会社ヤマサキ。中でもダメージヘアに着目したヘアケア商品に対する評価は高く、化粧品市場に「洗い流さないトリートメント」という新たな市場・言葉を創出したのは同社の大きな功績といえる。テレビCM等の広告宣伝に頼らず、サンプル配布を基本としたユニークな販売戦略は、創業者である山崎宏忠氏が訪問販売というスタイルで事業をスタートさせた頃に確立されたもので、販売ルートが変化した現在も引き継がれ、市場拡大の原動力となっている。

ひろしまの創業のポイント創業のポイント

考え込むと動きが止まる。「即実行」「行動」あるのみ!

商品の素晴らしさを無料サンプルで実感してもらい、販路を拡大。

新たな市場は、お客さまの声に耳を傾けることで見つかる。

実際に使用してもらう以上に
説得力のあるセールス戦略はない

Q. 自分で創業しようと思ったきっかけは何でしょうか。

山崎:事業家になることは幼い頃からの夢でした。父は警察官でしたが、母方の親戚には広島市内で事業を営む人が多く、現在の学生服のキョーリツや割賦販売会社ライフの初代社長は母方の親戚筋にあたります。子どもの頃から親戚のもとに出入りして、身近に商いの様子を見てきましたので、知らず知らずのうちに事業に対する憧れが胸のうちに芽生えたのです。
大学も中央大学の経済学部に進み、ケインズ経済学を専攻しました。ご存じのようにケインズの理論は、世界恐慌克服のために米国が実施したニューディール政策の裏付けとなった理論です。学生だった私は、彼の理論に従い、「いつか私も実業家として、この世に新たな有効需要を生み出し、新たな市場をつくっていこう」と強く心に思いました。

Q. 大学卒業後にすぐ事業をスタートさせたのですか?

山崎:いえ、大学卒業後は父と同じ警察官になりました。まったくの無一文で事業を始めることはできませんからね。まずは父と同じように地域住民のために働く警察官として、社会人の一歩を踏み出そうと思ったわけです。事業を起こすきっかけになったのは、クリーニング店で知った業務用洗剤との出会いです。ある日、クリーニングに出した制服の汚れがとてもきれいに落ちているのに感心してお店に尋ねたところ、業務用洗剤は家庭用に比べて汚れ落ちが格段に優れていると教えてくれました。即座に私はメーカーに連絡を取り、特約店販売の契約を取り付け、警察を依願退職いたしました。
1970年4月、マツダの中古車1台を30万円で購入し、訪問販売の営業を開始するのですが、それが私の事業の出発点でした。毎日毎日、自宅のあった五日市を中心に、1軒1軒訪ね歩きました。当初は5軒巡って、2つ3つ売れるといった具合だったのですが、あるとき、最初に品物をお渡しして、「お支払いは使って良さが分かってからで結構です」という後払いの掛売り販売にしたところ、売り上げは2倍、3倍にまで増えました。この時、私は初めて「まずは商品を使っていただき、商品力を実感していただくことが第一なんだ」ということを認識しました。これが後々、「サンプル配布による商品力の普及・拡大」という、ヤマサキの経営戦略の一つとして生かされてくるわけです。

Q. 商品の良さを実感してもらうために、具体的にはどのようなことをしましたか。

山崎:当時は2種類の洗剤を扱っていたのですが、一つはアルミ缶2㎏で2,000円という非常に売りにくい商品でした。そこで独自に詰め替え容器を用意し、もう一方の洗剤を購入していただいた方へ、小袋の無料サンプルとしてお渡ししました。すると、実際にサンプルを使われた方のうち、3〜4割の方から注文をいただけたのです。私はサンプルの手応えから、町内会や自治会などにご協力いただき、自らタライを持ち込んで、お客さまを前に洗濯の講習会を開催しました。できるだけクリーニング代を節約したいという消費者の方に、商品力を実感していただく機会を設けたことは販売に絶大な効果をもたらしました。

Q. 化粧品事業への参入はどのようなタイミングだったのでしょうか。

山崎:1973年の28歳の時に法人組織として会社をスタートさせ、4期目を迎えた頃、製造元とのご縁をいただき、洗剤に加えて海藻シャンプーの販売を始めたのがそもそもの始まりです。後に、その会社から独立して新たに製造事業を起こしたいという方に出資することになり、当社が販売を請け負いました。私自身も、いずれはメーカーとして事業を展開したいと心に決めていましたので、その方の思いに強く共感したのです。また、各家庭の主婦を対象に事業を進めていく中で、女性の美に対するこだわり、すなわち化粧品へのニーズが日増しに強くなっていくのをひしひしと感じていました。そんな中で、1979年9月に「La Sana(ラサーナ)」ブランドが誕生しました。ラサーナとはイタリア語で「健康的で美しい女性」という意味です。「すべての女性を健康で美しく」という願いを込めて名付けました。

お客さまとの濃密な対話をもとに、
新たな市場を生み出した

Q. 市場における優位性はどうやって築かれましたか。

山崎:まず、ラサーナブランドを当社の主力商品にするため、それまでの個人を中心とした売り方だけではなく、さまざまな団体や組合等への営業にも力を入れていきました。その結果、1981年にはラサーナブランドが洗剤の売り上げを抜き、化粧品事業へ注力していくことが決定的となりました。
しかし、好調に売り上げを伸ばす一方、お客さまとの対話の中で、髪の悩みに変化が生じていることも実感していました。この変化とはパーマやヘアカラーによるダメージケアのニーズで、現在も重要なポジションを占めています。当時は「シャンプー」と「リンス」が中心で、ダメージケアという概念がまだ一般的ではありませんでした。今でこそ一般的に使われている「トリートメント」が、サロン向けにようやく広がりつつあるような時代です。しかし、当時売れていた「シャンプー」と「リンス」も、将来的には満足してもらえないときがくるのではないかと思い、開発側と話し合った結果、ラサーナで「トリートメント」を開発することになったのです。
こうした素早いニーズへの対応は、常にお客さまと対話してきた、私の販売方法が功を奏したといえます。結果的にダメージケア市場で先駆者となれたのも、当社の販売戦略によるものだと思っています。

Q. 実際に「洗い流さないトリートメント」では新たな市場を生み出しましたね。

山崎:そうですね。茶髪ブームに沸いた1990年代は従来のダメージケアでは不十分だということで、より効果の高い商品が求められるようになりました。そこでたどり着いたのが「洗い流さないトリートメント」という発想です。これは当社が初めて独自に開発したヘアケア商品です。お使いいただいたお客さまからは、「翌朝の効果、実感がすごい!」と高い評価を得られました。しかし、この商品は新しい発想ゆえに、理解してもらうのが難しい商品でもありました。「洗い流さないトリートメント」という市場がまったくなかったので、言葉で伝えるだけでは広がりませんでした。
そこで、われわれがとった販売戦略は「徹底したサンプリング」と「口コミの活用」です。まず商品の良さを知ってもらうには、実際に使ってもらうしかないと考え、他社がテレビCMなどの広告宣伝にお金を費やしているところをすべて無償サンプルの生産に充てました。
次に口コミの活用ですが、人は良いものに出会い、その使い心地に感動を覚えると、自然と友人やお知り合いにその商品を紹介したくなるものです。現在はSNSへの投稿といった形に変化していますが、いつの時代も「信頼できる友人からの紹介」に勝る広告はありません。この「洗い流さないトリートメント」は特に多くの反響があった商品なので、口コミにより、あっという間にお客さまの大きな支持を獲得し、順調に売り上げを伸ばしていきました。

Q. その後の新たな販路開拓には、どのような戦略をとりましたか。

山崎:当社は訪問販売からスタートし、職域販売や百貨店などを中心に営業を行ってきましたが、さらなる拡販を狙って取り組んだのは「ドラッグストアにおける店頭販売」「通販会社と提携すること」「ECサイトに出店すること」の3本柱です。
まずドラッグストアに目をつけたのは、従来の薬局や化粧品専門店と異なり、その集客力と成長力から近い将来、スーパーや百貨店に取って代わるだろうと考えたからです。しかし、最初に当社の営業担当がある大手ドラッグストアチェーンに話を持っていったところ、「わずか60mlの小さなヘアエッセンス1本2,800円は、ドラッグストアに置くには高すぎる」と言われました。そこを粘って営業した結果、3年後に「店頭サンプリング」という有効な販促方法をご理解いただいた上で、商品を置いてもらえることになりました。
次に通販会社との提携ですが、大手通販会社5社にお願いして、サンプルを同梱してもらったところ、予想通り効果は絶大でした。電話注文が殺到し、1日30件だった注文は、2倍の60件になり、2年後には1日あたり200件以上になりました。
最後にECサイトへの出店に関しては、楽天の三木谷社長との出会いがきっかけで、話を聞くうちに楽天のショッピングモールに出店することを決意しました。テレホンオペレーターを待機させる必要がなく、全国を対象に24時間営業の店を開店させたことと同じ効果が得られるのですから、これを利用しない手はありません。

販売ルートが変わっても、
サンプリング戦略は不変の法則

Q. 市場が拡大するにつれ、お客さまとの距離は遠くなりませんか。

山崎:それはまったく心配いりません。ドラッグストアでの店頭販売を例に挙げると、メーカーが行うのは問屋への卸業務ですが、当社の営業社員はそれだけでなく、最終的な売り場となるドラッグストア各店舗を訪問しています。さらに独自に開発した営業用のオリジナルソフト(PDCAシステム)に、営業社員が自分の足で得た情報、各店舗の特徴、実績などを細かく記録しています。
また、店舗を訪れる際は、商品情報のお知らせや、店舗での新しい陳列方法の提案、効率の良いサンプリングの方法などをお伝えしています。具体的には、サンプルを差し上げる際の声かけの方法や使い方の説明、髪のお悩みの聞き出し方に至るまで、当社の営業社員がきめ細かにバックアップしています。ドラッグストアと一体となって、お客さまのお手伝いをさせていただいているので、全国にご要望を真摯に受け止める同志ができたように感じています。おかげさまでお客さまとの距離はさらに近くなりました。さらに通販会社との提携やECサイトなどのルートも、決してバラバラのものではなく、それぞれが相乗効果を生み出すプラスの働きをしています。そして、その基礎にあるのが、無料で配布するサンプリングの効果です。市場が全国に拡大しても、利用者の口コミによって信頼が広がり、顧客に大きな安心を提供しています。仕組みや方法が変わっても、わが社のサンプリング戦略は不変です。

Q. 事業を発展させるために大切なことは何でしょうか。

山崎:やはり自分なりのシナリオを描いた方が良いと思います。私も創業するにあたって、50歳までにある程度事業を完成させたいと考え、大まかな目標を持って事業を進めていましたが、あらためて経営計画書を作ったのは、私が40歳になった1985年のこと。きっかけは経営コンサルタント、一倉定氏の経営計画書の書籍に出会い、大変感銘を受けたことでした。早速、作成に取り掛かりましたが、完成に2年も費やしてしまいました。実は1986年に、現在の社名「株式会社ヤマサキ」に変更したのもこれがきっかけです。
完成した経営計画書の冒頭には、会社の心構えとして、「七つの誓い」「七つの心」「成功への十訓(行動指針)」が掲げられ、現在も社内に浸透しています。さらには、社長の決意表明、経営理念、経営方針、スローガン、社訓を掲げ、商品や得意先などそれぞれの基本方針を立てました。続いて売上高年計表、グラフ、資金運用計画、目標貸借対照表、目標財務比率、資金繰計画、そして長期借入金返済計画、長期経営計画などの各種帳票をそろえ、最後に全社員の決意表明文を入れ、全57ページの「経営計画書」を完成させました。会社が発展する原動力は社員のやる気です。そのやる気を喚起させるには、思いを一つにするためのビジョンが必要なのです。

Q. 広島で創業するメリットは、どのようなことが挙げられますか?

山崎:われわれの事業は、少しずつですが、一歩一歩確実に成長してきました。そうした歩みが可能になったのは、地元・広島にしっかりとした基盤を築けたからだと感じています。地元びいきはどこの地域にもありますが、カープファンの盛り上がりで分かるように、広島はその傾向が強いようです。だからこそ、当社の商品も、地元の方に長らく愛用されてきました。社員の中には「ラサーナに就職が決まった」と祖母に報告すると、「あのシャンプーの会社ね!」と言われた者もいるそうです。母親だけでなく祖母の世代に至るまで、それくらい広島では浸透していると実感しました。揺るぎない基盤があると、ビジネスにおいて心強いものです。
最後になりますが、私は会社を後世に残していくことが、経営者の最大の使命だと考えています。幸い当社には頼もしい人材がたくさん育っています。誰が経営者になってもちゃんと会社が機能するほど有能な人ばかりです。これから創業を志される方にも、次の世代にきちんとバトンタッチするところまでビジョンを持って、スタートラインに立っていただきたいと思います。

株式会社ヤマサキ


【創業】1970年4月
【所在地】広島県広島市中区舟入本町3-7
【ホームページ】https://www.corporate.lasana.co.jp/

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