成功した経営者をどんなにまねしても意味はない。失敗した経営者を反面教師に学ぶべき。
OWNDAYS(オンデーズ) 代表取締役社長

田中 修治さん

  • PROFILE
  • 1977年、埼玉県生まれ。20代の頃より起業家としてさまざまなビジネスの経営に携わる。2008年、30歳の時に多額の債務を抱え倒産寸前だったメガネ製造販売チェーン「OWNDAYS」を買収し、同社の代表取締役社長に就任して会社を再建。2019年現在、国内だけではなく、香港、台湾、シンガポールなど海外を含めて330店以上を展開するブランドにまで成長させた。また、この軌跡を著した『破天荒フェニックス オンデーズ再生物語』(幻冬舎)はベストセラーとなりテレビドラマ化もされ、大きな注目を集めている。新著は『大きな嘘の木の下で ~僕がOWNDAYSを経営しながら考えていた10のウソ』(幻冬舎)。

「破天荒」というのはまさしくこのような人のためにある言葉にあるのだろう。20代の頃からさまざまなビジネスを経験していた田中さんは、デザイン会社を経営していた30歳の時に、負債14億円を抱えて倒産寸前だったメガネ製造販売チェーン「OWNDAYS」を個人で買収。それまでメガネ業界の経験ゼロであるにもかかわらず、高品質でありながらも、リーズナブルで分かりやすい価格設定や、海外展開など独自の戦略によって事業再生を成し遂げた。しかも、再生だけではない。メガネ業界の売り上げが頭打ちといわれる中で成長を続け、11年を経過した2019年には、国内外で330店舗を展開するグローバル企業にまで事業を拡大させたのだ。厳密にいえば、田中さんは「創業者」ではないが、マイナスからここまで会社を大きくしたことを考えれば、「会社を生まれ変わらせた創業者」とも言える。そんな田中さんは、どのような考えに基づいて会社の経営をしているのか、お話を聞いてみた。

ひろしまの創業のポイント創業のポイント

他人の経営スタイルや成功話は参考にならないが、「失敗」は研究する。

「やりがい」や「モチベーション」を求めている人は経営者には向かない。

中小企業は不景気の時こそチャンス。優秀な人材が採りやすくなる。

14億の負債を抱えた会社の買収に
「悩む」という意味が僕には分からない。

Q. 「OWNDAYS」を買収したきっかけを教えてください。

田中:当時、自分が30歳を迎えるに当たって、経営者としてこの辺で“ひと勝負をかけたい”という気持ちが強くありました。自分のように、会社も小さくて資金も信用もない若い経営者が、大きなチャンスをつかむには、当時の「OWNDAYS」のような、燃え盛る火の中に突っ込んでいかなければ、なかなかチャンスがつかめないじゃないですか。

Q. 負債14億を抱える会社の再生をよく決断できましたね。

田中:悩まなかったですね。そもそも「悩む」というのは、対等な比較がある時に「どちらを選んだらいいかな?」と考えることじゃないですか。僕の場合、「OWNDAYS」を買収しないで、そのまま小さな会社を経営していくというのは、ちっとも魅力的な未来じゃなかった。それに比べたら、「OWNDAYS」を買収した方が、絶対に人生が面白くなるのが分かっている。だったら、どちらを選ぶのかは明白でしょう。迷う余地なんてないじゃないですか。

Q. そういう確信が持てるのは、やはり20代から経営者をしていた経験も大きいのでしょうか?

田中:いや、これは経営者だからという話ではなく、人生というものの考え方の違いでしょうね。そもそも当時の僕は、大学で経営を学んだとか、MBAを取得したとかでもなく、どれぐらい投資してどれぐらい回収するなんて、経営者らしいことは全然知りませんでした。とにかく、「OWNDAYS」を買収して社長になるという道を選んだ方が、絶対に人生が面白くなる、と考えていただけです。じゃあ、その自分がやりたいことをやるため、引き換えに何かを差し出さなきゃいけない。それが、14億円の借金の保証人だったというだけ。そう聞くと、14億円の借金を抱えるのなんて怖くなかったのかとよく聞かれるんですけど、別に僕がつくった借金でもないですし、もともとそんなお金を持ってないから、返せなかったらあとは自己破産するしかない。といっても、別に命を奪われるわけではなく、せいぜい社会的信用を失うくらいですよね。当時の僕は結婚もしていませんので子どももいませんし、クレジットカードもローンもないので、さほど困ることはありませんでした。これから、政治家や裁判官になるような予定も一切ありませんしね。多くの人が、会社を立ち上げて失敗するのが怖いというのは、友人や家族から「あいつは会社をつぶしたらしいよ」なんていろいろと言われるからですが、幸いというか、当時の僕は家族と疎遠で友人がいなかった。世間体の心配がありませんでした。つまり、14億円の負債を抱えた会社を買収するというのは、僕にとって限りなくノーリスクの挑戦だったんです。


Q. 事業を始めてどのような苦労があり、どのようにそれを乗り越えたのか教えていただけますか?

田中:「これまで最も苦労したことは?」とか質問されますが、どれか一つ絞れるようなものでもないほどたくさんありますね。その流れで言ってしまうと、そういう苦労話は、これから会社を経営しようという人には、正直ほとんど役に立たないと思っています。会社がどう成長するのか、経営者がどう会社を伸ばしていくかは千差万別で、それを一生懸命コピーしたところでなんの意味もない。それに、僕が経営者を始めたのは20年前のことですし、「OWNDAYS」を再生していたのも10年前。これから創業する人たちが置かれている事業環境とは全く違うのでなんの参考にもなりませんよ。ただ、成功話や苦労話は役に立ちませんが、人が「失敗」した話は非常に参考になるというのが僕の持論です。どんなに時代が変わっても、失敗する社長、失敗する組織というのはそんなに大きく変わらない。例えば、古典落語にも、商売に失敗する人々がよく出てきますが、現代のダメな経営者と驚くほどよく似ています。つまり、会社を経営する上での困難を乗り越えるには、他人や自分の失敗はしっかりと研究して、同じ轍を踏まないことが大切です。


自分と会社の財布を分けない
“私物化経営者”は必ず失敗する。

Q. 田中社長の考える「ダメな経営者」とはどんな人たちでしょうか。

田中:会社を私物化する経営者ですね。地方の中小企業に多いのが、自分の金と、会社の金の区別を付けない経営者です。ろくに働きもしない親族を役員にして報酬を払うとか、自分の高級車を社用車扱いにして減価償却するとか、銀行とのコンペだとかいって会社の金でゴルフへ行く。意外とこういう公私混同をする経営者は多いです。当たり前ですが、こんなことをやっていたら、従業員の心は確実に離れていく。僕自身も若い頃は、会社を私物化したことが反感を買って、社員に辞められたことがあります。これから創業する人たちは、こういう失敗から学んで、ぜひとも公私の線引きをした経営をしてほしいですね。


Q. この仕事の「やりがい」は何でしょうか?

田中:もちろん、社員やお客さんが喜んでくれるというのは、すごくうれしい。じゃあ、それが僕の「やりがい」なのかといわれると、そういうものでもありません。そもそも、一度も就職した経験もなくサラリーマンの経験もない僕にとっては、仕事をしなければ生きていけないというのが最前提にあります。もともと雇われていた人が社長になったとしたら、経営をする立場というのは「やりがい」を感じるかもしれませんが、僕には比較をするものがない。だから、ただやらなくちゃいけないことをやって、それを当たり前だと思って過ごしてきたので「やりがい」と言われてもピンとこないんですよね。
もちろん僕自身、経営者って大変ですからもう辞めたいと思う時があります。ですが、辞めたところで、経営者とは孤独なもので、次の何かがない限り一生孤独です。今は社長なので店舗に行けば、スタッフと一緒に仕事をして、いろいろな話をしたり食事をしたりする。社長を辞めたらそういうこともなくなってしまう。お金があっても毎日何をするんですか、という感じ。


Q. では、モチベーションを維持するためにやっていることはありますか?

田中:講演などでも、そのような質問や「どうやったら努力し続けられますか?」と聞かれますが、正直その感覚は理解できません。他の経営者とか、その分野で一流になっている人たちとよく食事しますが、これまで「どうやって努力し続けている?」なんて話題は出たことがありません。例えば、スポーツをやるために、筋トレや走り込みをするように、やりたくないことを無理にやることを「努力」と称しているわけじゃないですか。でもイチローさんみたいな人は、それを努力だと感じていない。モチベーションがどうとかやりがいがどうとかではなく、とにかく野球が好きで夢中でやっているだけじゃないですか。そういう人に、努力でトレーニングしている人は絶対にかないませんよ。それと同じで、「どうやれば努力できるだろう」とか考えている人は、残念ながらその時点で経営者としてはあまり勝ち目がないと思います。厳しい言い方ですが、やめた方がいい。僕自身、そういうことを考えるようになった時は、もう経営者を辞める時じゃないかと思っていますから。


「会社経営」とは、優秀な人材を集めて、
120%の力が出せる環境を整備すること。

Q. 経営者として、広島という地域の可能性をどう見ていますか?

田中:広島という都市には、非常に大きな可能性があると思います。今は、新型コロナウイルスの影響を受けていますが、中長期的に日本で伸びていくのは観光産業です。それでいえば、広島には世界的に注目されている原爆ドームや厳島神社があります。両方とも後世に残さなくてはいけない人類共通の遺産ですから、これから広島も世界中の人々がさらにやって来る可能性があります。これからの日本は人口減少で過疎化が進むので、これまで以上に、広島のような地域を代表する政令指定都市の役割が大きくなっていくでしょう。北海道は札幌、東北は仙台、東京、名古屋、大阪、京都ときて、中国四国地方は広島、岡山に人々も経済も集中していくことは避けられません。都市別GDPという点でも、広島のポテンシャルには大きなものがあると思います。


Q. 今後の展開を教えてください。

田中:海外展開はやり尽くしたので、いま最も力を入れているのは日本ですね。国内シェアの拡大に注力します。これから新型コロナウイルスの影響で不景気になりますが、うちは地域の眼鏡屋さんが3万円ぐらいで売っている品質のものを、1万円ぐらいのリーズナブルな価格で提供するデフレ向きのビジネスですし、リーマンショックの後や、東日本大震災の後の不景気にうまく事業を伸ばしてきました。そう言うと、「不景気の中でどうやって会社を成長させるんですか?」と質問されますが、実はいろいろなやり方があるんですよ。もちろん業種によって細かい違いはありますが、まず共通するのは、優秀な人材が採りやすくなる。景気がいい時は、大企業が大量に採用してしまうので、中小企業には人材が集まらない。しかし景気が悪くなると、本来ならば大企業へ行ってしまうような優秀な人材を採ることができます。事業とは、優秀な人材をいかに集めて、120%の力を出し切れる環境をどう整えるかに尽きます。それを競い合っているのが経営なんです。しかも中小企業は会社の規模が小さいので、大企業より人材の質の影響を受けやすい。優秀な人材を何十人というレベルではなく、1人でも2人でも採ることができると、劇的に変わっていく。そういう意味では、中小企業にとって不景気はチャンスだと思いますよ。あと、お金が借りやすくなるというメリットもあります。景気が悪くなると、救済措置として金融機関の審査も緩くなる傾向があります。資金集めに苦労している中小企業は多いですから、不景気を好機と捉えて、どんどん借りてしまえばいいんじゃないかと思いますね。


Q. 最後に創業を目指す人たちに、アドバイスをお願いします。

田中:今の若い経営者を見ていると、スタートアップとして何億円の資金調達をしたとか、エンジェル投資家に投資をしてもらったとかいう話をよく耳にします。なんだか格好良く聞こえますが、僕からすれば「単に人のお金で勝負させてもらっている、雇われ社長でしょ」と思ってしまう。これはあくまで僕の個人的な考えですが、最初から誰かに頼るということはしない。自分でやりたいことをやるわけなのだから、自分自身の責任でやるべきだと思う。もちろん、人によって経営のやり方は違うので、あくまで僕の考え方です。先ほども言ったように、人の経営スタイルなんていくらまねをしようとしてもできるわけがなので、何も参考になりません。その代わりに、他の経営者、他の会社の失敗をたくさん研究して、同じ轍を踏まないようにしてもらいたいですね。


OWNDAYS株式会社


【創業】1989年3月
【所在地】沖縄県那覇市久茂地2-8-7 久茂地KMビル 3F
【ホームページ】https://www.owndays.com/jp/ja

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