経営は“継栄”。創業するなら、 誰もが幸せになる“継栄”を目指す。
カレーハウスCoCo壱番屋 創業者

宗次 德二さん

  • PROFILE
  • 1948年石川県生まれ。高校卒業後、不動産関連の会社を経て、1973年に不動産仲介業として独立。1974年に喫茶店「バッカス」、1978年にカレーハウス「CoCo壱番屋」を開店。1982年に株式会社壱番屋を設立し、社長に就任。2002年からは一線を退き、コンサートホールの運営やさまざまな慈善活動等に取り組んでいる。

国内最大手のカレーチェーン店「CoCo壱番屋」を展開する株式会社壱番屋を創業した宗次德二氏は、1948年に石川県で生まれた。生後間もなく兵庫県尼崎市の孤児院に預けられ、3歳の時に養父母へ引き取られたが、養父のギャンブル癖のため、少年時代は各地を転々とする極貧生活を送ったという。幼い頃より培われてきた強い自立心が、全くのゼロから東証一部へ上場するほどの一大チェーンをつくる原動力になっている。「経営が趣味」と公言する宗次氏は、ゴルフや飲み会にも一切顔を出さず、ひたすら本業に身をささげてきた。そのスタイルには、創業者としての並々ならぬ情熱や覚悟といったものが感じられる。「CoCo壱番屋」の躍進は、宗次氏のひたむきな情熱があればこそ成せた快挙だといえる。

ひろしまの創業のポイント創業のポイント

先が見えない時こそ「現場主義」を徹底。ヒントは現場にある。

創業に大きな夢は必要ない。小さな目標達成の繰り返しが成功へ通ずる。

やってみなければ、経営は分からない。始める前から難しく考えない。

創業なんて苦労をお金で買うようなもの。それでも創業したいですか?

Q. まず、CoCo壱番屋を創業するまでの簡単な経緯を教えていただけますか?

宗次:高校を卒業後、不動産関連の企業に就職しましたが、不動産業のノウハウを身に付けて独立していく先輩たちがたくさんいました。「ならば、私も」と思って、最初は不動産仲介業として独立しました。しかし不動産の仕事は、近隣にチラシを配ってもたいした反応はなく、私としては何となく物足りなさを感じていました。
そんな折、妻が大変社交的な性格でしたので、「喫茶店でもやろうか」という話になり、1974年に「バッカス」という名の喫茶店を名古屋に開業しました。私もオープン初日に手伝いに行ったのですが、これが不動産とは大違いでした。開店と同時にたくさんのお客さまがいらして、お見送りする際には、「ごちそうさま」といった温かい言葉まで掛けてくれたのです。もう、これこそ私の天職だと思って、不動産屋を即廃業し、飲食業に専念することにしました。

Q. もともと「人」がお好きなのですね。信条とされる「お客さま主義」も、そこから来ているのでしょうか?

宗次:それもあるかもしれませんね。ただ商売を始めたら、お客さまの方を向くことは当たり前です。よそ見をする暇なんてありません。世の中にはちょっと経営が軌道に乗ってくると、やれゴルフだ接待だと、社長業という別の仕事に夢中になる方がいます。しかし本業をおろそかにしていると、お客さまのことが見えなくなってしまいます。すると経営は、たちまち迷走してしまいます。
同業他社に気を取られ、お客さまに目が向かないといったケースも駄目ですね。例えば、当時、名古屋の喫茶店ではモーニングがとても流行していました。しかし私どもでは、一切やりませんでした。コーヒーを出す際も、他店では小皿に盛った豆菓子がサービスで付いてくるのですが、私どもの店ではその豆菓子に30円の値段を付けて提供していました。きちんとお客さまの方を向いて、心のこもった接客をしていれば、必ずお客さまはお店のファンになってくれます。他店のサービスやヒット商品をまねすること、ましてや安さで勝負することは必要ないのです。
これは後に、CoCo壱番屋の「のれん分け制度」が確立してからの話ですが、お店をオープンして時間がたつと、どうしても客足が落ちてしまいます。するとフランチャイズのオーナーさんから必ずと言ってよいほど、商品値下げの要求がありました。売り上げが落ちたから、「値下げキャンペーンをしたい」とか、「セット割引ができないだろうか」という相談です。ですがそれを承知してしまったら、まず自社の利益が削られます。さらには取引先への無理なお願いや、従業員に過重労働を強いることにもつながります。経営者であるからには、そのような信念のない経営をしてはいけません。薄利多売を許せば、結局みんなが不幸になります。
では売り上げが落ちた時、一体どうすればよいかといえば、私は「売り上げが落ちたのなら、掃除をしなさい」と言って、オーナーさんたちを鼓舞していました。要は、自分の経営姿勢をどう示すかです。掃除でもいい、笑顔でもいい、感謝の言葉でもいい。経営者の真心をどう伝えるか。そこがきちんとできていれば、必ず売り上げは回復します。だからよそ見している暇なんてないのです。私は創業してから1日たりとも休まず、年間で5,637時間働きました。1日平均にすると約15時間半です。経営者はそれぐらい働いても問題ありません。だって、経営者に残業代は付きませんから(笑)。
最近、若い方の中には、飲食業に憧れ創業を目指す方が多いと聞きました。私もそうした方からよくアドバイスを求められるのですが、「創業なんておやめなさい」というのが、私の一番のアドバイスです(笑)。創業なんて苦労をお金で買うようなものです。人生すべてをささげる覚悟がないと、到底続けていけません。ですが、経営にはたくさんチャンスがあるのも真実です。そのチャンスをつかむには、コツコツ続けていくしかない。そうしていれば、思い掛けない奇跡が待っていることがあるのです。

答えは現場にある。だから、「超」が付くほどの現場主義であれ。

Q. 創業後、「これは失敗だった」といった経験はありますか?

宗次:失敗はありませんね。おかげさまで引退する2002年まで、20年連続で増収増益を達成できたので、経営そのものは順風満帆だったと思っています。ただ、日々の業務でいろいろと苦労はありました。振り返ってみると、喫茶店をオープンしたばかりの頃は、文字通り自転車操業でしたので、その頃はお金の面でとても苦労しましたね。店にある小銭を何とかかき集めて、銀行への毎月の返済に充てるといった時期もありました。でも今となってはそれも良い思い出です。苦しいことも含めて、仕事を楽しんでいる時代があったからこそ、少しずつではありますが、喜びが2倍、3倍となって返ってきました。
これから創業する方に心掛けてほしいのは、商売を始めたら少しずつでもいいから、とにかく右肩上がりを持続させることです。右肩上がりでさえあれば、全てがうまくいきます。経営はもちろん、後継者の育成も心配ありません。「この会社には未来がある」と信じて、きっと優秀な人材が集まってくることでしょう。会社がちゃんと利益を上げていれば、がんばった分、正当な評価もしてあげられます。「創業守成」といいますが、利益を生み出す経営をしてさえいれば、何も心配することはないのです。

Q. その右肩上がりの経営を持続させるコツはありますか?

宗次:先ほども言ったように、よそ見せずしっかりお客さまを見ておくこと。そして「超」が付くほどの「現場主義」を実践することです。他の外食チェーンでは経営面のテコ入れをする際、専門のコンサルタントの手を借りることもあるようですが、私どもの店では、ただの一度もコンサルタントに依頼したことがありませんでした。他社のリサーチを行ったこともないですし、もちろん値下げも行いませんでした。必要なことは全て現場から学びました。
今でこそアンケート用紙を置く飲食店は珍しくありませんが、CoCo壱番屋では1987年から、全店舗にお客さまの声を聞くためのアンケート用紙を設置していました。もしもアンケートを通じてクレームがあったら、私はそれをお客さまからのファンレターだと思っていました。それくらいお客さまの声というのは、経営者にとってありがたいものですね。内容が厳しければ厳しいほど、本当に役立ちました。経営者だった頃は、毎日3時間半かけて、1,000通以上ものアンケートを読んでいたものです。

Q. 現場をとても重要視しているのですね。自分好みのカレーが選べるシステムも、現場主義によるものですか?

宗次:そうですね。「CoCo壱番屋」では、オープン当初より、お客さまが自分の好みでライスの量や辛さ、トッピングなどが選べるシステムを採用し、それが大ヒットしました。そうしたシステムを思い付いたのも、喫茶店での営業を通じて現場のニーズを把握していたからでしょうね。
テーブルから下げられたお皿をよく見れば、「年配の方にはこのライス量は多かったかな」とか、「若い方はがっつり系のトッピングが好きだな」など、いろいろな情報が見つけられます。大事なこともヒット商品のヒントも現場にあります。ただ眺めているだけではもったいないのです。 チャンスの種をぜひ現場からつかんでほしいですね。

Q. 全国展開のチェーン店となると、経営者の意思を徹底させるのは大変ではありませんか?

宗次:確かに店舗が増えていく中で、私の思いをダイレクトに伝えられるのはここまでかな、という限界はありました。分岐点となったのは東京進出となった70店舗目辺りでしょうか。その後はご存じの方も多いと思いますが、ブルームシステムと呼ばれる「のれん分け制度」を導入し、それが「CoCo壱番屋」の全国展開の原動力となりました。全ての店舗に私の目が届かなくても、「超現場主義」を身に付けたオーナーさんたちが、私に代わってどうすればお客さまが喜んでくれるかを、毎日一生懸命考えてくれています。
創業を目指される方の中には、飲食店をやってみたいという方がかなりいるようですが、結局のところ「おいしさ」というものは百人百様です。この味だから、必ず売れるというものではありません。何が大切かというと、接客やサービスといった日々の積み重ねで、お店のファンをつくっていくことです。そして、その方法を見つけるには、現場から学ぶしかありません。

夢なんてなくてもいい。小さな目標達成を繰り返していれば奇跡は起きる。

Q. 創業後、厳しい現実に直面し、思うように夢が描けないことがあると思います。こんな時、どうすればよいでしょうか。

宗次:確かに、先が見えない時期はつらいですが、焦る必要はないと思いますよ。私も創業して間もない頃は自転車操業でした。月商70万円からスタートし、「150万円になったら2号店を出そうね」なんて、家内と話していました。でも、そんなにうまくはいきませんでした。先ほども言いましたが、月末になると店中の小銭を集めて返済に充てるような、行き当たりばったりの経営を続けていました。よく冗談でうちはIBS(いきあたりばったりシステム)経営だなんて言って笑っていましたよ。
創業された方は、誰もが必ず厳しい現実に直面すると思います。そんな中、無理して夢を持つ必要なんてないのです。はるか遠いところにある夢を見るのではなく、毎年小さな目標を立てて、その目標を達成するために必死に働いてみてください。壮大な夢は達成できなくても、小さな目標ならがんばればたどり着けるかもしれません。少なくとも、昨対比の利益を超えるという目標の達成を目指しましょう。
実を言うと、私自身は経営者に夢なんて必要ないと思っています。経営者が追求すべきは夢ではなく、目標です。大きな夢を語る経営者ほど大言壮語に陥りやすい。夢に酔うのもよいですが、それが実現できないのであれば、夢を持つ必要なんてないでしょう。それよりも大切にしてほしいのは日々の積み重ねです。毎日、必死にがんばっていれば、10年後、20年後に必ずその成果が実を結びます。私の経験から言えば、大きな夢を語って、経営がうまくいったなんてことは一つもありません。経営は小さな目標を立て、それを達成するために必死にがんばる。その繰り返しです。

Q. 創業したいと思いつつも、なかなか決心できない方に、よいアドバイスはありますか。

宗次:私は「せっかち」も重要な能力だと思っています。確かにせっかちに物事に取り組めば、失敗することもあるでしょう。しかし早めに結論が出るという利点があります。他人がどんなアドバイスをしても、結局のところ、経営なんて自分でやってみないと分からないことだらけです。
物事を始めるのに、そんなに難しく考える必要はありません。結論が出れば、それに真剣に対応していけばよいだけのことです。まずは動いてみてください。何か問題が出てきたら、それをクリアするための目標を立ててみる。それがクリアできたら、今度は次の目標といった具合に進んでいけばいいのです。動かないことには目標も見つかりません。
それともう一つ、創業を志すのであれば、その意思を貫き通してほしいですね。多くの先輩創業者たちが、経営は持続させることこそが重要だとアドバイスしていると思います。私も全く同意見です。続けていく秘訣はただ一つ、少しずつでもいいから右肩上がりの経営を実現していくことです。私の考える経営の理想は継続して企業が栄えていくこと、すなわち「継栄」です。「継栄」が実現できれば、お客さまはもちろん、社員や経営者自身も、おのずと幸せになれるでしょう。皆さんの健闘を祈ります。

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