世の中の流れの中に、恐れず自分の軸足を置いてみる。
株式会社エブリー 代表取締役

吉田 大成さん

  • PROFILE
  • 岐阜県出身。名古屋で学生時代を過ごした後、ヤフー株式会社を経て、2006年グリー株式会社へ入社。ソーシャルゲーム黎明期のヒット作を数多く手がけた後、動画市場に可能性を見いだし、2015年にグリーを退職。同年、自ら創業して株式会社エブリーを設立。「DELISH KITCHEN」などの人気動画メディアを次々とリリースしている。

1人1台のスマートフォンを持ち、通信スピードも格段にアップしたことで、瞬く間に急成長を遂げている動画市場。この動画の可能性にいち早く着目し、2015年の創業以来、業績を伸ばし続けているのが、レシピ動画メディア「DELISH KITCHEN」や女性ライフスタイル動画メディア「KALOS」などを運営する、株式会社エブリーである。面白いことに株式会社エブリーでは、FacebookやYouTube、Twitter、Instagramといった既存のプラットフォームを通じて、動画コンテンツを配信する「分散型メディア」というスタイルを確立。同社が運営する四つのメディア全部のフォロワーは450万人以上、1カ月当たりのリーチ数は4,400万以上と、動画メディアとしては国内トップの数字を誇っている。同社を牽引する吉田大成氏は、「動画を通じてもっと楽しく、もっと充実した毎日に」というミッションのもと、ユーザーのライフスタイル向上に努めている。

ひろしまの創業のポイント創業のポイント

これから伸びる領域や大きな変化が起きる世界に注目する。

市場に飛び込んで正解を見いだすためには、投資は不可欠。

会社単独で考えずに、コミュニティーの中から新たなアイデアを創出。

これから動画の時代が必ず来る!
その直感に迷いはありませんでした。

Q.現在の会社を立ち上げるまでの過程を簡単に教えてもらえますか?

吉田:弊社を立ち上げたのは2015年9月のこと。前職のグリー株式会社を退職して、翌月にはもう創業していました。グリーには10年ほど在籍していたのですが、私が入社した頃のグリーは社員も20人ほどのベンチャーのような会社でした。その中で私はゲーム事業を立ち上げたり、海外進出を担当したりしていたのですが、最後の2年間はずっと新規事業を担当し、ゲームに変わる“次のもの”を探していたわけです。そのうちの一つが動画でした。自分としては、スマホ時代の到来とともに必ず動画の時代がやってくると確信していたのですが、当時のグリーの判断は「eコマース事業の方を主力として進めたい」というものでした。それならいっそ自分でやってみようと思い立ち、独立に踏み切ったのです。

そんないきさつでしたので、創業の準備そのものは、辞めてから始めました(笑)。当初は自分一人でできるのだろうかという心配も多少はありましたが、それよりも将来有望な市場の真っただ中に踏み込んで、「もっといい世界をつくりたい!」という思いの方が断然強かったのです。不安よりも、新しい領域に対する好奇心が勝っていたようです。

Q. 資金集めなどはどうされたのですか?

吉田:僕の場合、上場前から在籍していたこともあり、グリーの株を持っていました。そこで、グリーの株を売却して得た資産5千万円を投じて、新しい会社を設立することにしました。お金をかけたから本気になれるわけではありませんが、「やるからには、人生を懸けてやらなきゃダメだ」という思いが自分自身にあったので、資金を投じる決断をしました。
また、いろいろ計算した上で、これだけ資金があれば1年間はもつだろうという見込みもありました。会社をつくった時点で、1年後・2年後の明確なビジョンがあったわけではないのですが、まずは動画市場のど真ん中に飛び込んで、何が正解なのかを見いだすためにも、投資は不可欠だったと思っています。
資金面よりも、自分としては、「そもそも会社ってどうやってつくるの?」という部分の方が苦労しましたね。登記に関する手続きや従業員の雇用に必要な手続き、税金を納めるための手続き、あるいは銀行とのやり取りなど、一体どういう順番で進めていったらよいのか、皆目見当も付きませんでした。オフィスも借りなきゃいけないし、動画づくりに必要なツールもそろえなきゃいけない。実際に会社を立ち上げて初めて、やらなければいけないことがいろいろあると痛感しました(笑)。

Q. 結局、全部ご自分で準備されたのですか?

吉田:ええ、自分で全部やりました。専門家にお願いする方法もあったのですが、仕組みを知っておきたかったので、自分で準備することにしたのです。本を読んだり、いろんな方に聞いてまわったりといった具合に、手探りで進めていきました。今はインターネット上で創業をサポートする便利なツールもあるので、これから創業するという方は、そうしたツールを利用されるといいかもしれません。せっかくの機会なので、苦労して創業の仕組みを知るのも良い経験だと思いますよ。

向き合うのは投資家ではなく、
自社のプロダクトであり、サービスであるべき。

Q. 創業時、複数の個人投資家から出資の申し出があったそうですね?

吉田:前職からお付き合いのある方や、創業する過程で知り合った方が出資してくださったのですが、ありがたいことに、それらは全て、投資家の皆さんから声を掛けていただきました。
事業を立ち上げる際、投資家の方たちとお会いして出資を仰ぐのも大事なことですが、私たちが手掛けるようなユーザー向けのサービスは、利用者としっかり向き合ってさえいれば、投資家の方から声を掛けていただけると思います。投資家ありきの目線で考えるのではなく、まずは自らのプロダクトやサービスと真摯に向き合うこと。そして、その先にいるユーザーが何を求めているのか、必死に考えることが何よりも重要ではないでしょうか。そこは、決してぶれてはいけないポイントです。

Q. 後進には良い教訓となるお話ですね。他に、失敗を経て学んだことなどはありますか?

吉田:弊社の場合、事業そのものは順調に成長しているのですが、会社の成長に対して、組織の仕組みづくりや整備が、後手後手にまわっているのが目下の悩みであり、失敗でもありますね。
分かりやすい例を挙げるなら、オフィスの移転問題でしょうか。サービスシェアが上がり、社員も増え、新しいオフィスに移って、「さあ、事業を拡大していこう」というタイミングだったのに、なかなか次のオフィスが見つからず、苦労しました。こちらとしては、簡単に見つかると高をくくっていたのですが、条件に合う物件を見つけるのは時間がかかるものなのです。バランスの取れた事業計画が大切だと学びました。


Q. 規模の拡大にともない、人材はどうやって確保されたのですか?

吉田: 最初は知り合いに声をかけて、紹介してもらいましたが、次の段階に進む時点で、限られたネットワークで人を探していては駄目だと考えるようになり、採用のエージェントにサポートをお願いすることにしました。自分がいたインターネット業界の中だけだと、どうしても選択肢が制限されてしまいます。「動画」という新しい領域に挑戦していくには、テレビ局や映像制作会社、あるいはそれらと関わる出版社、新聞社、さらには広告代理店といった分野のノウハウも必要になってきます。それならエージェントの力を借りて、普段会えない人材との機会をつくってもらえれば、その方が事業を拡大していく上でも得策だという結論に至りました。
組織の中で化学反応を起こすためにも、どうしても業界を超えた“新しい風”が必要でした。だからといって、まるっきり知らない世界に飛び込むとなると、本人も不安ですし、われわれにとってもリスクがある。これは他の業界でも同じだと思います。そこで、その道のスペシャリストであるエージェントに人材のマッチングをお願いしたのです。

他に先んじて何か新しい手を打っていく。そこから必ず新しい世界が広がる。

Q.たった2年で事業を拡大されましたが、順調でしたか?

吉田:最初は私を含めて4人で、やがて大学生のインターンが加わりました。2カ月くらいは10人ほどで、1人1動画コンテンツを作っていこうというところから始めました。でも全然見てもらえなくて、「本当に動画メディアって立ち上がるのだろうか」という不安と閉塞感でいっぱいになったこともありましたよ。それでも諦めずトライしていく中で、次第にサービスの方向性も定まり、視聴回数も順調に増えていくようになりました。

Q. 成長のきっかけは、やはりサービスの方向性が明確になったことでしょうか?

吉田:とにかくトライしていくことで、自分たちが進むべき方向性を見つけ、そこからどんどん改善していって、現在があるといった感じです。具体的な戦略を挙げるとしたら、自社のアプリやサイトに頼るのではなく、FacebookやYouTube、Instagram、Twitterといった既存のプラットフォームに対してコンテンツを提供する、「分散型メディア」というスタイルを取ったことが、これまでにない独自の試みでした。
特定ターゲット層を抱えるメディアの特性を生かして、クライアント企業とコラボした動画配信(タイアップ広告)などの試みも、われわれが最初に始めたことです。誰かがやったことの後追いをしているようではナンバーワンを取り維持することはできないし、新しい世界を切り開くこともできないと考えています。大切なのは、他に先んじて新しい手を打つこと! たとえ日本国内で事例がなかったとしても、果敢に挑戦することこそが、ビジネスに新しい可能性をもたらすと信じています。


Q. 最初の開拓者になることを恐れてはいけないということですね。

吉田:そうです。現在弊社では、四つのメディアを運営しているのですが、実はそれ以外に一度も日の目を見ることのなかった“幻のメディア”がありますよ(笑)。ニッチな領域ではあるけど、こんなジャンルもありかと思って作り始めたのですが、やっぱりうまくいかなくて、現在は止めているような状態です。でも華々しい成功の陰には、こうしたトライ&エラーが付きものなのです。他がやっていないことにどれだけチャレンジしたか、それが新しいものを生み出す素地になるのだと考えています。


Q. でもせっかく最初の開拓者となっても、追随する競合が出てきますよね?

吉田:それは宿命ですね。しかし競合がいない市場は、伸びづらい市場ともいえます。ある市場で一つ抜きんでた企業があれば、2番手、3番手の企業は1番手に迫るため、同質化を図ることに必死になります。その結果、シェアが動いてしまうこともありますが、それならば業界全体を盛り上げて市場そのものを拡大しながら、シェアをキープするという考え方もあります。いずれにしても新しい挑戦を続けていくことで、世の中をより良いものにしていきたい。そんな考え方で企業活動を行っています。

振り返ると、学生の時に
「創業」という選択肢がなかったのが残念。

Q.「社長業」の面白さを伝えるとしたら、どんなことが挙げられますか?

吉田:前職でベンチャーから大手企業になるまでの過程を経験したせいか、今は自分がどうこうというより、社員が成長していく姿を見る方が楽しいですね。弊社は会社全体としては右肩上がりの成長を遂げているものの、メディアや時期によっては、伸び悩むなど苦しんでいるチームもあります。そんな中、彼らが苦労して目標を達成し、喜んでいる姿を見るのが、自分にとって一番幸福を感じる瞬間という気がします。
自分一人でできることは限られていますが、優秀な人材が集まって、思う存分仕事に打ち込むことができれば、会社としても大きく前進することができます。働く人にとっても、ユーザーにとっても、それが一番喜ばしいことではないでしょうか。私としては、スタッフが伸び伸び働けるように、最良の環境をつくること。それが経営者である自分の大切な役割だと認識しています。

Q. 最後に地方で創業を目指す人たちへ、勇気の出るメッセージをお願いできますか。

吉田:私は岐阜出身ですが、やはり地元が盛り上がるとうれしいものです。一昔前は、地方でITベンチャーが誕生することはまれでしたが、今は地方でもいろいろなベンチャーが誕生しています。地方で創業してみようと考える人がもっと増えて、地域から市場全体を盛り上げていってくれたら、今よりも素晴らしい世の中をつくれるのではないかと思っています。
また、地域でコミュニティーをつくっていくことがすごく大事だと思います。プログラミングの勉強会でもマーケティングの勉強会でもいいので参加して、そこに集まっている会社間で情報交換をしながら進めていくこと、自社のノウハウを蓄積していくこと、会社単独で考えずにコミュニティーをつくっていくことが大事なのです。
私は35歳で創業したのですが、振り返るともっと若い時に「創業」の選択肢があれば良かったと思うことがあります。例えば学生時代なら、時間がたっぷりあるし守るものがない。失敗したからといって、社会的に排除されるわけでもないですよね。若い時期だからこそ、気軽に創業にチャレンジしておけばよかったと、今更ながらに悔やんでいます。若い方たちは、あまり深く考え過ぎず、これから伸びる領域や大きな変化が起きる世界に、自分の軸足を置いて、創業にチャレンジしてほしいと思います。真摯にユーザーと向き合ってさえいれば、必ず解は見つかります! 恐れず、トライしてみてください。

株式会社エブリー


【創業】2015年9月
【所在地】東京都港区六本木3-2-1 住友不動産六本木グランドタワー38F
【ホームページ】https://corp.every.tv/

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