創業は幸運を招く第一歩。 アパ流、運のつかみ方。
株式会社キャリア・マム 代表取締役

堤 香苗さん

  • PROFILE
  • 神戸女学院高等学部、早稲田大学第一文学部卒業。大学在学中よりフリーアナウンサーとして、TV・ラジオのDJ、パーソナリティーとして活動。その後、仕事と家庭の両立をはかり、自分らしく働きたいと願う女性たちに活躍の場を提供することを志し、株式会社キャリア・マムを設立。「女性たちのキャリアと社会をつなぐ」を経営理念とし、ライフイベントを機に離職した女性たちの、再就業や起業といった新しい働き方を推進している。ダイバーシティ、女性のキャリア支援といったテーマで講演・執筆など、幅広く活動中。

家事や育児を上手にこなしながら、仕事のキャリアもしっかり積み上げていきたい。現在、女性たちの間で、このようなライフスタイルへの考えは広く浸透しているが、働くママたちを取り巻く環境には、いまだに問題が山積みである。そんな中、自身のライフステージの変化を機に、ママたちの「働きたい!」という気持ちと真摯に向き合ってきた堤さん。事業の核となるアウトソーシング事業では、全国11万人の会員をつなぐワークシェアネットワークを有し、社会のニーズとママたちの働く意欲をマッチングさせることに成功。現在は、親子が共に過ごせるシェアオフィスの運営等にも力を入れている。

ひろしまの創業のポイント創業のポイント

働きたいママの意欲と社会のニーズをうまくマッチング。

自分らしくあるために、「飽きない」ことを「商い」にする。

多様な働き方を応援する保育室併設型シェア・オフィスの全国展開。

100万回生まれ変わっても、社長をやりたい!
創業は自分らしく生きる最適な方法。

Q. 創業に至った経緯について教えてください。

堤:そもそも私は、大学在学中からフリーアナウンサーとして活動していました。ちょうど「女子大生」ブームの頃です。当時は生放送の番組も多く、その場でうまい切り返しができれば、仕事がどんどん舞い込み、ギャラも上がりました。しかしそのためには、見えない部分で何倍も努力が必要で、私の中では「働くこと」=「期待を超えるパフォーマンスの提供」という認識が生まれました。当時の私の目標は自分の名前を冠した番組を持つことでしたが、自分らしくあるには、ちゃんと自分の頭で考え、それを自分の言葉で発信しなければなりません。これは創業にもつながることだと思います。思えばこの時期からすでに創業に向けた下地が出来上がっていたのでしょうね。
その後、結婚してしばらくは仕事を続けていたのですが、思わぬタイミングで妊娠が分かりました。当初は出産が終われば、普通に仕事に復帰できるものだと思っていたのですが、この認識はすぐに甘いと気付きます。子育てがこんなに大変なものだとは夢にも思わず、結果的に、このライフステージの変化が創業へと結び付きました。おそらく出産していなかったら、創業していなかったと思います。

Q. 出産後、何が創業のきっかけをもたらしたのですか?

堤:子どもが生まれてから公園デビューを果たしたのですが、そこで障がいを持つ子と母が、他の親子がいない時間帯でないと遊べないという状況に遭遇しました。子どもたちがお子さんをからかうため、他の親子がやって来ると、その母子はスーッと抜けていくわけです。これは裏返せば、お母さんたちの中で「自分と同じ価値観の人としか付き合わない」と、無言のルールができているということです。そんな大人たちがいる社会で子育てをしたくないですよね。そこで立ち上げたのが「子育てサークル PAO(Possibility・Ability・Opportunity)」です。これは、障がいを持つ子どもを抱えるママも、子どもを育てている立場はみな同じであり、母親が元気に楽しく日々を過ごせれば、子どもも必ず前向きになれるはず、との思いを共有するママたちの集まりです。記念すべき初イベントには1500人もの親子が集結しました。これを機に「同じようなことを考えている人がいる」とママ仲間を紹介され、キャリア・マム事業部を創設しました。当初は、主婦から会費を募って運営しようと考えていましたが、少額でも負担を求められることへの抵抗感が強く、多くの主婦が離れていったため、逆に集まった主婦がお金を稼げる仕組みを考えることになり、これが創業へとつながったのです。

Q. 立ち上げ当初は、病気や裁判など波瀾万丈だったそうですね。

堤:実は子どもが1歳半の時に、私自身が大病を患い、半年間入院が必要になりました。退院したら、明日死んでも後悔がないよう自分の思い通りに生き、どう思われてもいいから子どもたちの未来をこの手で守りたいと思うようになりました。こうした思いもキャリア・マム創設の追い風になっています。
しかし、キャリア・マムの事業自体は順調でしたが、1997年に立ち上げた有限会社が赤字や裁判などのトラブルを抱え、経営が困難となりました。この時期だけはさすがに「いっそ死んでしまおうか」と思い悩んだほどです。結局、どうやって乗り越えたかというと、創業の志、つまり「子どもたちが未来へ希望を持てる社会を実現したいという母の願い」の原点に立ち返りました。さらに、知恵を貸してくれるビジネスや法律の専門家たち、先輩方との出会いも大きな力になりました。いろいろ大変なこともありましたが、今となっては「100万回生まれ変わっても社長をやりたい」と思っているほどです。創業ほど、自分らしく生きるに適した手段はないですね。

“飽きない”ことは、“商い”になる!
自分が本当にやりたいことをする。

Q. 初めから法人化したのに、理由はありますか?

堤:当社の場合、特に法人化のメリットを意識したわけではなく、最初に請け負った業務が公的機関からの発注で、法人であることが前提だったからです。いきなり公的機関から大きな仕事を請け負うには勇気が必要でしたが、一方で失うものはありませんでした。考えてみれば、何者でもないことほど強いものはないですよね。当時の私にとって、やれば大金が得られるけど、やらなければ利益はゼロ。これはやるしかないと即決心できました。
さらに今では、子どものためにも、会社をつくって良かったと思っています。先ほど大病を患ったと申し上げましたが、もしも私が明日消えたとしても、会社が残っていれば、私が思い描いた「創業の志」は残ります。創業する際、私は子どもたちに説明できない事業はやらないと固く誓っていました。私にとって最高の褒め言葉は、子どもたちから「うちのママは世界一かっこいい!」と言われることです。自分の母親が、仕事を通して何を思い、何をしたかったのかを知ってほしい。会社を立ち上げてからは、できるだけ自分の働く姿を子どもたちに見せてきました。出張にも連れていきましたし、女性支援の実績で内閣府から表彰された際は、首相が参加する授賞式に連れていったこともあります。
もう一つ、熱い思いを抱いたスタッフの存在も、会社をやって良かった理由です。会社では、良いことをしているのに、なかなか採算が取れない事業もあります。経営者としては打ち切りもやむを得ないところですが、そんな部署のスタッフから「無給でもいいから働きたい」と言われたことがありました。彼女らの言葉に「何としても採算の取れる事業にしなくては」と、奮い立たされましたね。スタッフ一人一人の熱い思いを束ねる点でも、やっぱり会社経営は面白い!とてもやりがいのある仕事です。

Q. 創業する際は、何から手を付けたらよいのでしょうか?

堤:私は「具体的に整理をすると心も落ち着きますよ」と、皆さんにアドバイスしています。といっても、「何から整理すればいいの?」と思われますよね。そこで紹介しているのが、以下に挙げる6W2Hです。

①Why「なぜ:理由、目的は?」
②Who「誰が:経理主体、業務経験、パートナーは?」
③What「何を:業種・業態、商品は?」
④When「いつ:いつから(開業年月日)?」
⑤Whom「誰に:市場・ターゲット顧客、顧客特性は?」
⑥Where「どこで:立地条件、店舗・事務所は?」
⑦How「どのように:商売のやり方、事業規模、商品・サービスの提供方法、販売形態は?」
⑧How much「いくら:収支計画は?必要資金・自己資金・設備資金・運転資金の額と見込み」

何か物事を形にするなら、上記を書き出してみてください。文字にするうちに、自然と自分の考えもまとまります。頭の中で考えているだけでは、何もしていないのと同じです。行動を起こすためにも、頭の中身を文字にしてアウトプットすることが重要です。
また、事業をやっていると考えることが数多く、全部抱え込むとパンクしてしまいます。私もパニック症候群になって、初めて人前で泣いてしまいました。すると気持ちが切り替わって、人に頼れるようにもなりました。経営者は「できすぎ君」ではいけません。できない人でいいから、人を巻き込む仕事の仕方を覚えてください。

Q.創業前に6W2Hを整理する際、何かコツはありますか?
堤:書き出す際、一つ一つの項目は具体的であればあるほどいいと思います。例えば「Why:なぜやるのか?」の場合、「自分はこうありたい。だから1カ月当たり、これくらい稼ぐ必要がある」といったように、よりリアルな目標の方が分かりやすくてよいです。抽象的な言葉ばかり並べていると、目標がブレてしまいます。事業についても、自分が「お客さまの好き」に合わせるのが難しいと感じるならやめた方がいいでしょう。お客さまを意識しすぎると、自分のやりたいことにウソをつくことになりますからね。6W2Hに書き出すのは、掛け値なしで自分のやりたい内容にしましょう。私は「飽きないこと」が「商い」になるのだと信じています。終わりを迎えるその瞬間まで、自分らしくあるためには、あなたにとっての飽きないことを見つけるのが一番です。自分自身の中に嫌なことをずっと抱えていたら、知らず知らずのうちに家族に対しても、イライラした気持ちで接してしまいますよね。

女性の再就職を応援「宅建資格取得プロジェクト」

「できるか、できないか」ではなく、
「やるか、やらないか」が分かれ目。

Q. 今後のビジネスについて、どのような展望を抱いていますか?

堤:私どもの中核を担っている事業は、全国11万人の在宅ワーク会員を活用したワークシェア型BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)事業です。いわゆる外部委託事業ですね。これに加えて、在宅ワーク就労教育訓練などを官公庁より受託しています。さらにこれからは、在宅だけでなく、皆さんがお住まいの各地域で働ける場所をつくるお手伝いも開始したいと考えています。具体的にはシェアオフィスの運営ですが、働くママが安心して働けるように、保育室を併設したコワーキングスペースのフランチャイズ事業を全国展開していく予定です。すでに、キャリア・マムのオフィスの隣には、さまざまな業種の方たちがスペースを共有するシェアオフィスと保育室が開設されています。会員には働くママだけでなく、男性も、独身も、シニアもいます。多様な働き方を認め合う、キャリア・マムの理念が具現化されたような空間です。今後は各地にフランチャイズでシェアオフィスを拡大し、本当の意味で多様な働き方を応援していきたいと考えています。もちろん広島でも、私たちの考えに賛同し、新たなコワーキングスペースをつくりたい人がいたら大歓迎です。ぜひ、私たちの仲間に加わってください。

Q. 最後にこれから創業を目指す方へ応援メッセージをお願いします。

堤:考えるより、まず動くことに重点を置いてほしいですね。創業は「できるか、できないか」ではなく、「やるか、やらないか」。踏み出さずにいたら、一生スタートできません。
ビジネスアイデアは温めているだけではもったいないです。発信してこそ、自分も新たな情報を受け取ることができます。「いいな」と思ったら、言葉にしてどんどんアウトプットしてみてください。アイデアがブラッシュアップされ、新しいビジネスモデルが生まれるかもしれません。自分から情報発信することが、ビジネスを育てる第一歩です。最初は小さくてもいいから、あなたなりのビジネスを大きく育ててみてください。
そしてどんな瞬間も、自分らしくあることを大切にしてほしいです。評価は他人が決めるかもしれませんが、自分の価値は自分が決めるものです。この創業は自分らしくあるためのものか、そこにウソはついてほしくないです。自分に自信を持って、楽しく創業して、希望にあふれる人生を歩んでください。

株式会社キャリア・マム


【創業】2000年8月
【所在地】東京都多摩市落合1-46-1 ココリア多摩センター 5階
【ホームページ】http://www.c-mam.co.jp
女性キャリア&起業家支援プロジェクト(創業関連イベント等を随時更新)
https://woman-hub.jp/

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