成功した経営者をどんなにまねしても意味はない。失敗した経営者を反面教師に学ぶべき。
株式会社カンデオ・ホスピタリティ・マネジメント 代表取締役会長兼社長

穂積 輝明さん

  • PROFILE
  • 1972年京都府生まれ。1999年、京都大学大学院工学研究科を修了後、学生時代からアルバイトをしていた株式会社スペースデザインに入社。建物の開発から運営まで、直営で行う業務に携わる。その後2003年に株式会社クリードへ入社。2005年には同社内で出資を受け、新規事業として株式会社カンデオ・ホスピタリティ・マネジメントを立ち上げ、代表取締役社長に就任する。2012年、MBOによりオーナー経営者として独立。現在は、かねての目標であった社会貢献活動にも力を入れている。

ホテル最上階の露天風呂、朝食には多彩なビュッフェ。安くて寝るだけのビジネスホテルとも、高級で気軽に利用できないシティホテルとも異なる、新たな選択肢として登場した「カンデオホテルズ」。創業者である穂積氏は、自ら全国のホテルを巡る中で、ほどよいホテルがないと気付き、新たな需要を満たす“4つ星ホテル”として事業をスタートさせた。それまで、開発と運営を行う事業に携わってきた経験から、建物とオペレーション両方の価値を重視している。ホテルとしては後発ながらも、現在建設中のホテルを含め、日本国内で約5,600室を展開している。さらに2025年までに、国内で10,000室、海外で4,000室のグローバルな展開を目指している。

ひろしまの創業のポイント創業のポイント

複数の要素を掛け合わせ、他にはない価値をつくる。

事業は従業員があってのもの。それぞれ違う強みを生かす。

根拠のない自信でもいい。自分の中に生まれた情熱を持ち続ける。

掛け算を強みに、
オンリーワンであることを大切に。

Q. 創業に至った経緯について教えてください。

穂積:大学時代、私は熱心にボランティア活動に参加していました。学生なので時間はありましたが、同じボランティアの社会人は、がんばればがんばるほど、日々の仕事との両立で苦しくなっていました。世のためにがんばる人が苦しくなるのはおかしいと思い、NPOやNGOではなく、いつか民間の営利企業として社会貢献を実現したいと考えていました。
そして大学3回生の時からアルバイトをしていた企業に入社するのですが、そこがリクルートの創業者である江副浩正さんがオーナー兼経営者を務めるベンチャーデベロッパーだったのです。入社式で、3年以内にやめること(独立すること)を考えないようでは、三流だと言われたのを今でも覚えています。もちろん励ます意味もあったのですが、創業の精神が培われたのは、その頃からだと思います。
その後、さらに経験を積みたいと考え、不動産ファンドビジネスの会社に移りましたが、新規のホテル事業を提案したところ、社長に認めてもらうことができ、出資を受けて社内のベンチャーとして創業しました。リーマンショックなどを経て、2012年に株式を取得し独立しています。

Q. 創業に当たって、なぜホテル業界を選んだのですか?

穂積:ホテル事業は、建物や設備のハードと、オペレーションという独自のソフトを掛け算することができます。私は最初の会社にいた時に、外国人専用の高級賃貸住宅の開発・オペレーション事業や、高級オフィスビルのスペースをベンチャー企業に区分けして貸す事業の立ち上げに携わりました。大学での専門は建築で、ハードのデザインにこだわりもありましたが、この時の経験からも、つくって終わりではなくオペレーションも自ら行うことが、将来も残る価値になると考えていました。私がカンデオホテルズを始めた頃、両方を意識している会社はあまりなかったため、両方を極めることで差別化できるという感触はありましたね。その上で、安心して利用していただけるように、しっかりと顧客と向き合えば、新規のベンチャー企業でも十分に勝ち目があると思っていました。


Q. カンデオホテルズは、なぜ“4つ星ホテル”をコンセプトにしたのですか?

穂積:ホテル事業を立ち上げようと決めた後は、事業計画を立てて、全国で候補となる場所を探しながらホテルを回りました。そこで一人のユーザーとして感じたのは、ただ寝るだけの安かろう悪かろうのビジネスホテルか、気軽には泊まれない高級なシティホテルがほとんどで、中間のホテルがないということでした。そこで、その間を満たすホテルをつくれば、多くの方に利用してもらえるのではないかと考えました。
ところが、それまでにない形態でしたので、1号店を開けた際には「ビジネスホテルとしては高いね」「シティホテルかと思ったらレストランが一つしかない」など、中途半端なホテルという意見をよくもらいました。これは厳しいかもしれないと思いましたが、歯を食いしばって続けました。
風向きが変わってきたのは、3年ほど続けた頃からです。ビジネスで泊まってくださった方が、今度は観光で家族と泊まるという動きが出てきて、「実はこういうホテルが欲しかった」ということも言っていただけるようになりました。ここでやっと、潜在的な需要が顕在化したと確信できましたね。
ですが、やはり立ち上げの3年はすごく苦しかったです。ブランドはないし知名度もない、運営側の経験値も少ないという状態でした。ニッチなところから始めましたので、当時は、当社と同じコンセプトを意図して運営するホテルはなく、競合のいないブルーオーシャンでしたが、市場がないということでもあり、認知してもらうまでに時間がかかりました。何とか続けている間に、少しずつファンの方が増えてきて、当ホテルを指名してくれるようになりました。


Q. 市場が顕在化すれば、競合も登場したと思いますが、どのような工夫をしていますか?

穂積:当初は、星でいうと3.5くらいからのスタートでしたが、それから4.0になり、今は4.5へと向かっています。少しずつですが、競合とずらすことを心掛けています。当ホテルには、大浴場である露天風呂や、サウナなどがあります。通常のホテルであれば、会食が終わってから寝るために戻ることが多いのですが、当社では、早い時間にチェックインされ一風呂浴びてから出掛ける方も多く、顧客の目的により差別化ができていると思います。
私自身、性格として競争が嫌いということもありますが、競争がないところで事業をしたいという気持ちはずっとありましたね。ナンバーワン志向は全くなく、オンリーワンであることを大切にしています。


創業するというマインドを
いつインプットしておくか。

Q. 創業に踏み出すために、重要なことは何でしょうか?

穂積:創業に至るかどうかは、“ビジネスパーソンは創業するものだ”という考えを、いつインプットするかだと思います。人生を豊かにしたいと考えた時に、いい大学を出て、いい企業に入ることだけではなく、自ら事業を起こすことも、一つの素晴らしい選択肢として持っておくということです。こうした考えが高校生や大学生の時にインプットされていると、その後の人生は大きく変わると思います。何が当たり前かという発想は、周囲の環境によるところも大きく、私も最初に入った会社で強く影響を受けました。実際に創業して成功している人に触れること、事例や事実を確認するということも大事かもしれません。
また、創業して経営者になるといっても、出資をしてもらうサラリーマン経営者と、自ら全責任を負うオーナー経営者があります。私がどちらも経験した上で感じたのは、サラリーマン経営者というは、もちろん必死の覚悟で取り組みますが、最後は逃げることができるので、あくまでサラリーマンが権限を持っているだけということでした。役割が違うため、どちらが良い悪いということではありませんが、自分で株を取得して債務保証をして、オーナー経営者になったことで「人生=事業」となり、本当の経営が始まったと感じました。


Q.従業員ファーストの経営をされていると聞きましたが。

穂積:何のために経営するのかを考えると、“従業員のために”が一番にあるからです。そもそも、従業員が活躍できて幸せにならなければ、事業経営は成り立たないと思っています。当社では採用に関して、学歴や年齢・性別・国籍などは一切問いません。そして何ができないかは気にせず、何ができるかを大事にしています。例えば、ホテル業界なのに接客が苦手という方もいます(笑)。でも、売り上げの計算はピカイチ、物流の管理が得意など、それぞれ強みがあります。オールマイティーな人材でなくても、その方が持っている強みをもとにチームを組んだり、ミッションを編成したりしますので、タスクにはまる人を採用することや、はめ込んで育てるという発想はありません。仕事に対して、従業員の皆さんの持つ熱量を大切にしています。
さらに、自分の強みを生かして働くので、チーム内でも一人一人の役割の大切さを認識でき、お互いの理解や信頼関係が深まります。社内の信頼関係の良さは接客の良さにつながり、好循環が生まれます。良い人間関係で、気持ちよく働けているかどうかが、ホテルの事業では大事だと思います。

Q. では、経営において大切にしていることはありますか?

穂積:やはり何よりも、まず従業員を幸せにすることが、結果的に顧客や株主も幸せにすると考えています。当社が上場を目指さないのも、利益の追求は重要ですが、時に従業員の利益に反することがあるからです。従業員ファーストであるために、従業員のためにならないことや、世のため人のためにならないことはやらないという価値観を大事にしています。そして、他社で活躍できなくても、当社では活躍できるという方も多く見てきましたので、そのような方々を守り育てたいという気持ちが強くあります。
新しく店舗を開ける際には、なるべく地元の方を採用していますが、従業員が誇りを持てるホテルにしたいと思っていますので、地域一番店を狙い、何より本人が「一番店にするんだ」と思える環境づくりを意識しています。私自身、チャンスをいただいたことで今の自分があります。一流の大学を出て、一流の企業に入社しなければビジネスで活躍できない、なんてことはありません。特別な資格や能力がなくても、やる気のある方にどんどん活躍の機会を提供したいのです。当ホテルで働く方が、「成長できたな」「発展できたな」としみじみと感じていただけたなら、私も少しは世の中に良いことができたと実感できると思います。


情熱こそ物事を立ち上げる原動力。
走りだせる勇気を持つ。

Q.これからの目標や展望について教えてください。

穂積:2025年の5月に、創業20周年を迎えます。それまでに国内で1万室の出店、年商では500億円、経常利益は100億円を目指しています。現在、契約済みで建築中のホテルを全部合わせると、日本国内で約5,600室までが決まっています。日本市場の中で、ホテルは全体で約100万室ありますが、当社のようなニッチな市場が全体で10万室ほどと考えています。その中で1万室を獲得しにいくと、シェア10%になりますが、これを一つの中継点として捉えています。それからは、ホスピタリティ・コングロマリットによる多角化ですね。社会貢献事業でシナジーも得られ、世のため人のため役に立てる事業を、2025年以降はどんどん立ち上げていこうと思います。

Q. ホスピタリティ・コングロマリットとは、どのような内容でしょうか?

穂積:まだ構想の段階で、具体的な中身はこれからですが、農業や教育などについて考えています。例えば農業では、豊かな土壌に温暖な気候がある国では、お米の二期作ができます。しかし、農業技術が低いことで精米ができず、一度他国へ輸出して高値で買い戻すことも起きています。そこで農家の方が市場で直接お米を売れるようにして、もし売れずに値崩れしてしまう時は、私たちが最初から決めていた値段で買い取り保証をするといった仕組みをイメージしています。そうすると、農家の方は安心して農業に励むことができ、当社としても作り手が明確で信頼のある、おいしいお米をホテルで提供できます。そして、ホテルの顧客にとっても間接的に農家の方を支援できるというように、良いサイクルが回ると考えています。
教育においては、日本でも全員へ、均等に教育の機会が与えられるとは限りません。そこで例えば、ホテル大学といったものをつくり、学びを支援する仕組みを考えています。これは人材を囲い込むことが目的ではなく、ホテルビジネスを通じて新しい発見や学びを提供することを目的にしたいと思っています。 今もまだまだ道半ばで、やらなければならないことは多いですよ。


Q. 最後になりますが、広島にはどのようなイメージがありますか? また、地方で創業を目指す方にアドバイスをお願いします。

穂積:広島は、何と言っても海外の方が多いですよね。宮島や原爆ドームなど、観光資源が豊富な上に、広島の歴史や文化に触れたいと考える方が多く、日本の中でも特別な強みを持っていると思います。
また今の時代、大都市でしか事業ができないということはありません。例えば、岩手県の伝統工芸品である南部鉄器は、今や海外の方を中心に売れています。エッジを立てた本物で勝負をすれば、地方からでも世界を相手にビジネスを始めることができます。大切なのは、世界を相手にできると、自分が心から信じられるかどうかです。
私も最初は全く根拠のない自信だけでがんばりました。本当に思い込み以外の何物でもありません。ただその情熱こそが、物事を立ち上げていく原動力だと思います。「いつか創業するぞ」というノリで社会に出ていく若い人が増えれば、社会も活性化すると思います。時には向こう見ずに走れる勇気も、物理的に努力できる時間も、若さの特権です。
初めは、明確なゴールもなくてもよいと思います。しかし、今よりもっと良い未来のために追い求め続けること。それこそが事業であり、人生なのではないでしょうか。


株式会社カンデオ・ホスピタリティ・マネジメント


【創業】2005年7月
【所在地】東京都港区新橋4丁目5番1号 アーバン新橋ビル7階
【ホームページ】https://www.candeohotels.com

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