子育て世帯からはお金を取らず、多種多様な企業の課題解決を支援。
株式会社AsMama 代表取締役CEO

甲田 恵子さん

  • PROFILE
  • 1975年大阪府生まれ。フロリダアトランティック大学留学を経て、関西外語大学英米語学科卒業。1998年、省庁が運営する特殊法人環境事業団に入社。役員秘書と国際協力関連業務を兼務する。2000年、ニフティ株式会社入社。マーケティング・渉外・IRなどを担当。2007年、ベンチャーインキュベーション会社、ngi group株式会社に入社し、広報・IR室長を務める。2009年3月退社。同年11月に子育て支援・親支援コミュニティー、株式会社AsMamaを創設し、代表取締役CEOに就任する。

スマートフォンを介して、子どもの世話や送迎、さらには家事や洋服やおもちゃの“おさがり”まで個人間で依頼し合える「子育てシェア」アプリが、子育て世帯の間で話題になっている。登録料・利用料は一切かからず、依頼する人が払うのは1時間500円から700円という支援者への「お礼」のみ。また、依頼に応えた支援者には損害保険を適応するという気軽さと安心さから利用者が増加している。2020年3月1日現在、累計会員数は7万3,451人。これまで2万9,293件の「地域共助」を実現したこのアプリを運営するのは、株式会社AsMama。自身も働くママだった甲田恵子さんが、2009年に創業した会社である。新型コロナウイルスによる全国一斉休校で、働くママたちの「誰にも子どもを預けられない」という問題が深刻化する中で、さらに注目を集める「子育てシェア」。日本社会の課題解決にもつながることが期待される事業を、甲田さんはどのようにここまで育てあげたのか。創業の経緯から話を聞いてみた。

ひろしまの創業のポイント創業のポイント

頭の中で考えるのではなく、足を使って多くの人の話を聞くことが大事

「しっかりとした収益計画を立ててから創業」ではいつまでたっても創業できない

物事は計画通りに進まないので「途中で変える」ことを恐れない

誰もやっていない取り組みは、
自分でやるしかないと思った。

Q. まずAsMamaという会社を立ち上げた経緯を教えてください。

甲田:きっかけはリーマンショックの翌年です。当時勤めていた投資会社が9割解雇となって、次の職探しのために職業訓練校に通いはじめたことでした。そこで、ついこのあいだまでキャビンアテンダントやコンサルタント、ショップの店員としてバリバリ働いていたのに、妊娠や育児さらに介護などで、いきなり働けなくなったという人たちにたくさん会ったんです。こんな優秀な人たちが平日の昼間から働けないというのはどう考えてもおかしい。これが自分の中ですごい大きな衝撃でした。それまでも、これからの日本では、多様なニーズに応じて安心して気軽に子どもを預けられる環境整備こそが、働く環境には必要だと、漠然と思っていましたが、いろいろな人にヒアリングをしてみたら、私が思っていた以上に、子どもを預けられない人たちがたくさんいたんです。そこで、こういう人たちを助けられるような仕組みはないのかと思って、行政の窓口に相談に行ってみたところ、「地域の子育てサークルを紹介しましょうか」なんて感じでピントのズレた答えしか返ってきませんでした。ビジネスとしてこういう仕組みをつくっている人はいないのかと、投資会社時代の同僚たちに相談をしたのですが、「そんな仕組み、どうやって収益を出すの?」とバッサリ。こんな調子で誰かが仕組みをつくってくれるのを待っていたら、私はおばあちゃんになってしまうと思って、だったらもう自分でやるしかないと思い立ったんです。


Q. 思い立っても、会社を立ち上げるという行動に移すのは別の話だと思いますが、その辺りの迷いはなかったのですか?

甲田:ありませんでした。おそらくそれは、前職の影響が大きいと思います。投資会社にいたので会社をつくる手続きはよく分かっていました。また会社で広報を担当して、新しい事業などを世の中へ発信して、その反応などを経営に生かすというのが業務でしたので、事業の立ち上げは割と身近だったんです。そこに加えて私は、もともと世の中を便利にするようなビジネスモデルを考えることが大好きということもあります。これまでもビジネスモデル特許を7-8件申請しています。ただ、だからといって、すごく起業家志向があったわけでもありません。特許を申請しても、それを自分がやるというよりも、誰かがやってくれたらいいかなくらい。そんな私がここまでの行動に移せたのは、やはり私の考えるような仕組みがどこにもない、ということが大きいです。地域コミュニティで支え合いというと、子育てサークルや交流会と言った非営利活動的だったり、互助的なイメージになりますが、私の考える問題解決はそこじゃなく、電気・水道・ガスと同じような日本全国のインフラとして、どこでも誰でも利用できる「地域共助」の仕組みです。そうなると任意団体などではなく、ちゃんとした事業体で、同じような志を持った人たちを全国から集め、サステイナブル(持続可能)であるために収益をあげる必要があります。この誰もやっていない取り組みは、自分でやるしかないと思ったのです。


Q. 実際に創業してみて、思っていたのと違っていたこと、苦労をしたことなどはありますか?

甲田:収益性と社会性をどうやって両立させるのかということが難しかったですね。実は私は、こういうことをしたいというビジョンや、社会をこう変えていきたいというミッションは漠然としたものではありますが、見えていました。でも、「How」(どうやって?)という部分はまったくないまま創業してしまった。つまり、事業や資金の計画を立てずに、どうやってお金を稼いでいくのかということが後回しになっていたので、かなり試行錯誤を繰り返して迷走して、収益モデルが確立されるまで18カ月ほどかかってしまったんです。


自分の会社は何のために存在するのか。
どうすれば社会を動かせるのか。

Q. 具体的にどのような「迷走」をしたのでしょうか?

甲田:当初、私は地域コミュニティの中には顔見知りもいないというママも多い中で、まずはイベントをたくさんやることで人のつながりをつくっていこうと思ったんです。だから、現在のものとは異なる会員制のSNSサービスを立ち上げるとともに、「親子交流イベント」を全国で3カ月に100回ほど開催したんです。ただ、これをやればやるほど、「これで収益が出るの?」という迷いが強まりました。人とのつながりをつくるという目的でいえば、大きな会場で1000人を集めるよりも、小さな公民館で20〜30人が集まって車座でいろいろな話ができた方がいいことは言うまでもありません。でも、それくらいの規模のイベントだとスポンサーは集まりません。企業側からすれば、チラシを配布するにも営業をするにも、最低でも1000人規模のイベントでなければメリットがありません。この収益性と本来の目的である「参加者のつながり」をどうやって両立すればいいのか、分からなくなってしまったのです。そんな調子なので、一緒に始めた13人の仲間が、12人が私の元を去ってしまいました。みんな、この事業の可能性を信じて集まってくれた人たちなのに、それを呼び掛けた張本人が「どうすればいいか分からない」なんて言ったら、「もう付いていけない」となるのは当然です。残った一人は出産を控えた妊婦で、結局、私は一人ぽっちになってしまいました。


Q. 大きなピンチですね。諦めようと思いましたか?

甲田:「うちにこないか」と言ってくださる会社もあって、揺れる時期でした。でもそこで、起業家育成で有名な「NPO法人 ETIC.(エティック)」の主催する社会起業塾に参加することができたのです。多くの名だたるソーシャル起業家を輩出しているところですので、ここにさえ入ればどうにかなるんじゃないか、起業家としての「虎の巻」のようなものをもらえるんじゃないかと、淡い期待を抱いたのです。でも、それが甘い考えということにすぐに気付きました。当時の塾長の方に、「AsMamaはどんなことを目的としている?」と質問され、地域コミュニティで子育てを頼りたい人と、支援したい人を結び付けたいという説明をしましたが、「参加者の中で、一番何を言っているのか分からない」とダメ出しをされてしまったんです。その社会起業塾では、自分の会社が何のために存在するのか、どうすれば社会を動かすことができるのかということに徹底的に向き合わされます。そこで分かったのは、結局、私がこれまで考えていたことはジャストアイデアに過ぎず、どういう家族構成で、どういう働き方で、どういう年収の人たちが利用するものだという明確なペルソナがなかったということだったんです。


Q. この問題をどのように乗り越えたのでしょうか?

甲田:1000人くらいに街頭アンケートをしました。いきなり声を掛けても当然、みんな怖がりますので、まずは地域のあいさつ活動や清掃活動から始めて、徐々にアンケート箱を置いたりして。あとはスーパーの店長さんにお願いして、店内で声を掛けさせてもらったりもしました。1人だったので結局4カ月くらいかかってしまいました。でも、そんな苦労のかいあって、ペルソナが分かるということ以外にも、事業を進めていく二つの大きな「副産物」を得ることができたんです。まず、一つは収益を得る方向性が見えたということです。実際に1000人の方たちにお会いしてお話をしてみると、私が想像していた以上にお母さんたちが“クチコミ”に依存していることに衝撃を受けました。例えば、あるお母さんが子どものアトピーに悩んでいたのですが、その解決方法として民間療法のようなことを言っていたので、「それはお医者さんに診療してもらったのですか」と尋ねたら、返ってきた答えは「ママ友の知り合いから聞いた」。こういう“クチコミ”を元にして、賃貸にするか分譲にするか、子どもの習い事は何がいいのか、というようなことまで決めているお母さんが世の中には非常に多いです。そこで、だったらこういう人たちと、ちゃんとした事実に基づいた正確な情報を持っている企業をマッチングしたら、ビジネスになるのではないかと思ったんです。
アンメットニーズを捉えようと、不特定多数へむけたマス広告やポスティングに多額の資金を投入する企業からすれば、関心のあるお母さんたちへダイレクトに情報を届けるというのは、非常に大きなメリットになります。もちろん、お母さん側も怪しい都市伝説のような話ではなく、正確な情報が得られるので悪い話ではありません。


Q. まさにWin-Winですが、このマッチングをどのように実現したのですか?

甲田:それがアンケートを行うことで得られたもう一つの「副産物」です。私が声を掛けた1000人の中には、地域で積極的な活動をしている元PTAの役員さんだとか、何百人を集めることができるサークルの運営者などクチコミが得意な方たちがたくさんいました。そのような方たちに協力を仰ぐことで、地域のつながりのある方たちの中で、興味のある人たちを交流イベントに呼んでいただくことが可能になったのです。こうして収益性と社会性のバランスが取れはじめてきたので、2013年にこの動きを加速しようと、地域の知り合いとしかつながらず、なおかつ保険も適応できるアプリ「子育てシェア」をリリースしました。と言っても、これも最初から収益化の道ができていたわけではありません。アプリを作ってから「さて、これからどうやってビジネスにしていこう」と思って1年半ほど過ぎた時、ある不動産会社から「自分たちが所有・管理する物件で、地域コミュニティづくりをAsMamaのメンバーがコンサルとして関わることで、それを売りにしていきたい」と言っていただいたんです。これによって、「地域コミュニティの実装」「地域コミュニティと企業のマッチング」という、今のAsMamaの二つの収益の柱ができたんです。


地域の老若男女が助け合う時代。
創業は一人で自宅でも始められる。

Q. 今後のビジネス展開について教えてください。

甲田:これから人口減少がさらに進行していく中で、ママだけではなく、地域の老若男女が助け合わなくてはいけない局面になっていきます。そこでまずは国内の外国人を対象に、今のシステムを多言語にして使っていただく。そして、私が生きている間に、これを海外展開していきたいですね。少子高齢化に悩む国はまだ先に控えていますからね。実際、既に海外の行政やNPO団体からも問い合わせをいただいています。


Q. 首都圏でビジネスをしている立場から見て、広島のイメージはいかがですか?

甲田:人口も多くて、新幹線など社会インフラも充実しているので、環境がすごく恵まれていると思います。その一方で、切羽詰まって社会課題があるわけでもなく、普通に生活ができてしまう地域なので、自分から積極的に何かの問題解決をしよう、創業しようというマインドが育ちにくい部分もあるのかもしれません。ただ裏を返せば、そこを突破してしまえば、抜きんでられるということでもあります。創業支援も充実していますし、今はリモートワークや地域移住も進んでいるので、創業のチャンスにあふれた地域だと思います。創業を検討している方は、先行者利益があるうちに早く行動を起こした方がいいですね。


Q.最後に、後輩の創業希望者へアドバイスをお願いします。

甲田:あまり考え過ぎないで、途中で変えていくということが大切だと思います。創業セミナーをやると、半年前に参加した人がまた来ているので、どうしたんですかと尋ねると「いろいろ考えちゃって」と言う。真面目なんですよ。特に男性の方は、ちゃんと収益が立つのかとか、社屋をどうするのか、人をどう雇うかなど、すごくきっちりと考えてから創業しようとする傾向が強いのです。事業計画や収益なんて、最初から思った通りに進むはずもないですし、壁に当たったら変更すればいいんですよ。私もしっかりとした収益性と社会性のバランスを取ってきっちり決めてから創業しようと考えていたら、おそらくまだ今もAsMamaを立ち上げていないでしょうね。今は社員も雇わず、一人で自宅から創業することだってできるので、まずは行動を起こしてみてほしいです。


株式会社AsMama


【創業】2009年11月
【所在地】神奈川県横浜市中区山下町73-1306
【ホームページ】https://asmama.jp/

ページトップへ戻る