心を尽くすマーケティングで、絶対的な価値を社会へ届ける
合同会社Absolute(アブソルート) 代表

中野 直子さん

  • PROFILE
  • P&Gマーケティング部へ新卒入社し、化粧品やシャンプーのブランド戦略立案・商品企画・テレビCM制作など幅広い業務領域をリードし、シンガポール駐在も経験。その後USJや楽天にて幅広いイベントやアプリ開発などのマーケティングに従事。出産を機に移住した愛知県豊橋市にて、合同会社Absoluteを起業。「“モノ・ヒト・コト”の可能性を最大化し、“絶対的価値”を生み出す」をミッションに掲げ、マーケティングのプロとしてクライアントの事業変革と持続的な成長を支えている。国内はもとよりシンガポールを舞台に、住宅やホテル、レストラン、食品、商業施設、メディア、Webサービス、アパレルなど幅広いビジネスを手掛ける。

USJを立て直した森岡毅氏の活躍により、一躍注目を集めたP&G流マーケティング。今ビジネス界ではP&G出身のマーケティング人材が幅広い分野で活躍している。Absolute(アブソルート)の代表を務める中野さんもそうした人材の一人であり、森岡氏が指揮したUSJの改革チームにも加わり、日本人の嗜好を捉えたイベントやプロダクト開発を指揮し、数々の成果を上げてきた。2017年に起業して独立した後も、徹底した消費者主義の視点を貫き、クライアントの高い満足度を獲得している。

ひろしまの創業のポイント創業のポイント

マーケティングの基本は目前のお客さまに全力を尽くすこと

価値観の違いを理解して可能性を最大限に生かす人材開発

仕事を精査した上での「断捨離」は悪いことではない

「それってお客さまは喜ぶの?」
全てのマーケティングはここから

Q. 創業に至る前のキャリアについて教えてください。

中野:学生時代は、教育大学で音楽を専攻していたので、Excelすら触ったことがないほどビジネスと無縁でした。映画配給会社に就職するのが夢でしたが、中途採用枠しかなく断念、先輩から「P&Gなら転職に有利だよ」と勧められて同社に入社しました。P&Gでは2年目からアジアを統括するシンガポールへ移り、シャンプーやコスメのCM制作や商品開発を行いました。
P&Gからソニーピクチャーズに転職し、結婚を機にUSJに移ります。マーチャンダイズ部においてマーケティング課の立ち上げという命を受け、そこでの事業をゼロから立ち上げていきました。同じ映画のキャラクターを見ても、海外と日本の”かわいい”や”楽しい”の感覚は違います。何度も交渉し、日本人の嗜好に合うアトラクションを作り上げて人気を博しました。また複数のコンテンツを集めたクールジャパン・イベントの一つとして、隣接するテレビ局を丸ごと占拠するというプロジェクトも指揮しました。

Q. どの仕事にもP&Gでの経験が生きていますね。

中野:そうですね。P&G流マーケティングの特徴は、「Consumer is Boss(お客さまがボスである)」という顧客至上主義の思想です。これは自分の中でずっと徹底しています。しかし、他社のマーケティングをお手伝いするようになってみると、このシンプルな哲学がこんなにも見落とされているのかと驚きました。
P&Gにいた頃は、商品開発の至る場面で「それって、お客さまは喜ぶの?」というフレーズが、合言葉のように交わされていました。プロダクト開発目的で夕方から夜にかけて行われる連日の消費者インタビューは、どんなに上の立場の人も参加し、丹念にお客さまのニーズを探るのが常識でした。そこではあらゆる出発点が「お客さま」でしたが、他の多くの会社では「トップがやりたいから」あるいは「担当者がいいと思うから」といった理由で商品ができています。その想いは非常に重要ですが、それだけではお客さまの心に届きません。
さらにもう一つ、P&Gで学んだのは「Logical thinking(論理的思考法)」です。順序立てて物事を簡潔に伝え、相手を説得する話術がとても重視されました。私はこれが本当に苦手で、最初の頃は発言することすらも気が咎めました一。Conclusion First(結論を先に提示する手法)は当たり前。発言のたびに「何が目的なの?」と厳しく問われました。でも中途半端なスキルがない状態で徹底的にしごかれたおかげで、伝えることをゼロから見つめ直せたのは良かったです。

Q. 会社を設立された経緯について教えていただけますか?

中野:もともと創業の意思はありませんでした。パートナーの転勤が決まり、故郷・愛知に戻ることが決まった際、「それなら当社のマーケティングを手伝ってほしい」という依頼がありました。お話をいただいたのはかなり大きな企業でしたので、法人でないと取引口座を開設することができません。結果的に、たった2週間で会社を設立することになりました。今年で創業6年を迎えますが、あまり構えすぎずに立ち上げたのが良かったと感じています。その時々で、自分らしい形を模索しながらやってこられました。
立ち上げた当初は、創業600年の麹屋さんやガス会社の住宅系のサービス、老舗の呉服店などとお仕事をさせていただきました。なかでも動物園や植物園を含む大型総合公園で来場者を大幅に増加させたマーケティング成果が注目され、口コミや会社員時代に培った人脈を通じての相談が増加します。北海道から沖縄まで全国各地からの相談はもちろん、シンガポールなどの海外からもあらゆるカテゴリの相談が寄せられました。

一人一人の可能性を最大限に!
コーチングを学んで見えたこと

Q. 会社を設立したのち、苦労されたことは何ですか?

中野:事業は順調に成長してきたのですが、人材の採用や育成にはとても苦労しました。私自身は子育てと仕事をとても楽しみながら両立していたのですが、その一方で、結婚や子育てのタイミングで退職しキャリアが途絶える友人たちを見ていて、何とかしたいという思いに駆られていました。
大学時代から”人の可能性を最大化したい”というビジョンを抱いていたこと、音楽しか学んでこなかった私自身がマーケティングスキルを培うことができた成功体験から、”どんな人でもこの仕事はできるはず”と当時は甘く考えていました。急速に会社が忙しくなったことをきっかけに、周囲に声をかけて興味を持ってくれた人材を一定の審査基準に基づいて採用しました。実際に彼らを前にして感じたのは、当たり前ですが”人”はそれぞれ違うということです。P&G時代は、”人を目立たせてあげる”ことがある意味で上司によるサポートの一つでしたので、積極的に発言機会を与えました。一方、一部のメンバーはそれを苦痛だと感じていたんですね。
リーダーとして積極的にチームを率いたいと思える人材はほんの一部で、裏方として補佐したい立場の人が多くを占めます。これは、私の会社だけでなく、クライアントの会社を見ても大多数がそうでした。これまで経験を積んだ環境がいかに特殊であったか、リクルーティング技術の重要性を改めて感じました。
個人としては人の絶対的価値を信じて疑わない一方で、マーケティングスキルを培うため、会社の中では無理強いに見えることもお願いすることもあります。大きな会社では様々な立場を設けることが可能ですが、小さな会社ではある程度幅広いスキルが必要になる。次第にそのギャップに私自身が苦しむようになりました。

Q. そのような状況をどのように克服されましたか?

そんななか、楽天時代の親友の勧めでアメリカ人のコーチからセッションを受けることになりました。
そこでは多くの気付きがありましたが、私自身人好きな性格が影響して、”人は選んではいけない”という思い込みがあることを発見します。会社をうまく成り立たせるためには、その思い込みが邪魔をしていたんですね。”人を選ぶことは優劣をつけることではない、フィットの有無を判断することは双方にとって大きなメリットである”。一部の方には当たり前のことかもしれませんが、私にとっては重要な学びでした。
その後、仕事の内容から契約形態までを大きく見直してメンバーとの関わり方を変え、今では非常に健康的で生産的な会社が運営できています。人の大切さも以前より強く感じるようになりました。その出来事をきっかけに、今はコーチング資格取得を目指して全米最大手のコーチング・カンパニーでスキルを学んでいます。最近ふとP&Gの新入社員時代、森岡さんが情熱を傾けて一緒に作ってくださった私の将来のビジョンを見返したのですが、そこにもハッキリと”コーチングの鬼になる”という言葉が記してありました。
コーチングは、自分の軸を取り戻し・輝かせて、人生を積極的に動かせるようになる技術だと私は信じています。地方に来て特に感じていることは、自分の人生をオリジナルに楽しく生きる大人が少ないこと。人のせいにすることで人間関係が悪化する様子も多く見てきました。今はマーケティング×コーチングを通じて”自分の人生を楽しく生きる”大人を増やすために、私自身人生をかけて貢献できるよう新サービス開発や学びを深めることなど……日々邁進しています。

Q. その他に悩みはありましたか?

中野:頭を悩ませたといえば、プライシングでしょうか。初めは、自分の仕事に値段を付けることに悩みました。こればかりは失敗を繰り返し、ちょうどいい相場を見つけていくしかないですね。私の場合、初めは安く設定して、徐々に上げていきました。
日本では、形のないものに対価を支払いたがらない傾向があります。自分のがんばりと先方が感じる対価が食い違うことも少なくありません。しかし、そこで遠慮は無用です。「この額ならやる気が出る!」と思える値段を付けることが大事です。無理して安い価格を設定する必要はありません。
大切なのは、目の前のお客さまに全力を尽くすこと。お客さまが心から満足すれば、お客さま自身が口コミで営業してくださいます。実業家のひろゆきさんが「友だちがいないと起業できない」と言っていましたが、本当にそうですね。お仕事を通じて知り合った方に、真心を込めて最善を尽くしていれば、ふさわしい対価もおのずと決まり、仕事の輪も広がっていきます。

あらゆるニーズに応えながら
自分の真価・やりたいことを見直す

Q. これから経営者になられる方に、何かアドバイスをお願いします。

中野:仕事を頼まれるのがうれしいタイプなので、一時期は20以上の仕事を同時に進めている時期もありました。しかもやり始めると目の前の方のためにあらゆることをサポートしたくなり、マーケティングの範疇を超えることも含め、自分でどんどん仕事を増やしていく始末。目の前の人に全力を尽くすというポリシーが邪魔をして、ついついやりすぎてしまい無理を重ねました。
そのことを考え直したのは、会社を設立してから3、4年たった頃。ついにどっと疲れが出て、自分の中のコップが空になった気分でした。同じくマーケティングの会社を立ち上げた友人も、似たような経験をしたようです。
思い返してみると、本当にやりがいを感じ、心から喜んでいただけるお客様がいる一方、結果が出ても、ご本人のパッションや立場上反応が薄いお客様もいる。価値観のズレだと思いますが、あえてそこは考えないようにしてきました。でも、マーケティングは心を使う仕事で、そのパワーは無限大ではありません。できる限り本当に喜びあえるクライアントや仕事内容とは何なのか、とことん見つめ直しました。みなさんにもこうした時期が来るかもしれません、覚悟が必要です。

Q. 仕事のバランスが取れなくなることは、誰にでも起こりえますか?

中野:相手のニーズにばかり応えていると、自分を見失う時が来ます。もちろん、ニーズに応えた分、スキルは上がります。でもそこで一度見直した方がよいでしょうね。会社が成長していくと、人や売り上げが減ることが恥ずかしいと感じるものです。決断するのは勇気がいりますが、自分に必要なマネーと仕事を精査した上で、断捨離することは決して悪いことではありません。
お客さまの中に、私が大好きなお豆腐屋さんがいらっしゃるのですが、その方と仕事をした時、「僕が30年間考えていたことを、中野さんが全て形にしてくれた。ありがとう!」と大変喜んでくださいました。その他にも「中野さんはもう家族だと考えている」とお伝えくださる呉服屋さんは、今後一生のお付き合いになることを感じています。
短い起業人生を振り返った時、こういった心の繋がりを持つことが私自身の喜びだと、強く意識しました。その方たちのためによりリソースを割くためには、自身の時間の使い方は厳しく精査しなくてはいけない。今はそれを楽しんで行っています。

Q. 最後にこれから創業される方へメッセージをお願いします。

中野:シンプルに自分のやりたいことを形にしてください。そのためには自己理解が必要ですが、その理解はいろんなアクションを起こさないと得られません。ぜひ、スモールアクションから試してみてください。
子どもたちに提供しているプログラムでの話ですが、美容師を目指す子に、「そのために何をするの」と聞くと「専門学校へ行く」という答えが返ってきました。でも私は「まずはお母さんの髪を切ってあげようよ」と提案しています。アクションを起こさないことには、夢だと思うことが本当にやりたいことか分からないからです。
今後は、マーケティングとコーチングを掛け合わせたプログラムを教育機関に広めることも目指しており、実際に成果も上がってきています。自分を知って、自分のやりたいことを話して、行動を起こす。それは子どもたちにも、創業者にも必要なことです。ぜひ、あなた自身を知って、可能性を最大化し、未来へ大きく羽ばたいてください。

合同会社Absolute(アブソルート)


【創業】2017年4月
【所在地】愛知県豊橋市広小路二丁目9番地1 コンチェルトタワー豊橋7F
【ホームページ】https://absolute-mkt.co.jp

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