独自の視点で読み解く

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独自の視点で読み解く㉖

日本酒を「浄溜」して未来へつなぐ
「ナオライ」

広島県神石高原町。冷涼な空気が包むこの地に、歴史あるお酒の蔵があります。現在、その場所は「ナオライ」のお酒づくりの拠点となり、日本酒に新たな命を吹き込む「浄酎(じょうちゅう)」の拠点として生まれ変わっています。
広島で活躍するタレントの中島尚樹さんと井上恵津子さん夫妻が現地を訪れ、ナオライ 代表取締役の三宅紘一郎さんに、世界初のお酒の製法、廃棄ゼロのサステナブルな仕組み、そして数々の苦難を乗り越えてきた創業の裏側について、たっぷりとインタビューを行いました。

ナオライ 代表取締役 三宅紘一郎さん


1983年広島県呉市出身。酒蔵に縁のある環境で育ち、日本酒を広めるべく上海へ留学。日本酒酒蔵再生をテーマに、2015年瀬戸内海の離島三角島でナオライを創業。日本酒を低温で蒸留する第三の和酒「浄酎(JOCHU)」をリリースし、広島県神石高原町にナオライ神石浄溜所を設立。2025年能登半島産の浄酎を生産するためにNOTONaorai株式会社 能登浄溜所を設立。浄酎を日本各地、世界各地に広げている。
https://naorai.co/

現地や取材の様子は、動画でもご覧いただけます。

「低温浄溜」で日本酒が生まれ変わる

  • 中島さん ここが神石高原町の浄溜所ですね。すごく歴史を感じる建物です。
  • 三宅さん そうです。ここは元々、神石高原町で170年近く日本酒をつくられていた「田中酒造」さんという酒蔵の跡地なんです。役場の方々のご支援もあって、この場所をお借りしてお酒づくりの拠点にさせていただいています。
  • 中島さん お邪魔します。この機械はなんですか?
  • 三宅さん これは特許も取得した世界で初めての「低温浄溜」の機械です。通常の蒸留ではなく、「浄(きよ)める」という字で「浄溜(じょうりゅう)」と呼んでいます。日本酒を低温で浄溜して生まれた新たなお酒が、「浄酎(じょうちゅう)」なんです。今日は実際に生産を実演してみますね。
  • 井上さん えー、すごい! 実演していただけるんですね。
  • 三宅さん まず、原材料となるのがこの日本酒です。アルコール度数は16度くらい、精米歩合70%の純米酒です。
  • 中島さん 甘くていい香り。これ、このまま飲んでもいいんじゃないですか?
  • 三宅さん はい、このままでもおいしいお酒なんです。でも、ここから浄溜することで、さらに新しい価値を生み出します。では、機械に入れて、低温浄溜を開始します。
  • 中島さん これを使ってどのような状態を作り出すんですか?
  • 三宅さん 気圧をコントロールして沸点を下げるんです。見てください、今、温度は30度ちょっとで、お風呂よりぬるいくらいなんですが、中で泡が出て沸騰し始めました。
  • 井上さん 本当だ、熱くないのに沸騰してるんですか?
  • 三宅さん はい、これが低温浄溜です。30度台という低温で蒸発させるので、熱によるダメージを与えずに、日本酒が本来持っている華やかな香りや風味を残したまま、アルコールと香気成分だけを抽出できるんです。
  • 中島さん なるほど、熱を加えないから、素材の良さが死なないわけですね。
  • 三宅さん その通りです。こうしてできるのが「浄酎」の原酒です。
  • 井上さん うわー、透明できれい。ポタポタ落ちるしずくが美しいですね。
  • 三宅さん 日本酒は昔から神事で欠かせないものですが、その神聖な日本酒をさらに「浄める」という意味を込めて、「浄酎」と名付けました。「Purified Spirit(浄化された魂)」という意味も込めています。
  • 中島さん 日本酒でも焼酎でもない、全く新しいジャンルってことですよね。
  • 三宅さん はい。これまでにいろいろな酒蔵さんと協業できるモデルを模索してきたんです。元の日本酒の個性をそのまま生かせるのもポイントです。

日本酒の「うまみ」までも商品化

  • 三宅さん それでは浄溜が終わったので、できたての「浄酎」の香りを嗅いでみてください。
  • 中島さん あれ? これ、さっきの日本酒のまんまの香り。透明なのに、香りはふくよかな日本酒そのものですよ。
  • 井上さん いい香り。全く同じかと思ってしまいますが、色が少し違いますね。日本酒はかすかに黄色っぽいけど、浄酎はより透明なんですね。
  • 三宅さん はい、これが浄酎です。試飲用のものを用意したので、ぜひ飲んでみてください。ただ、度数は41度くらいありますよ。
  • 中島さん 日本酒で41度って聞いたことないです! あー! 度数は高いですが、キレがあって、広がる感じが違います。
  • 三宅さん 日本酒の良質なアルコールを抽出しているので、日本酒の良さも残った優しい風味になるんです。例えばお寿司屋さんで、まずは日本酒を飲んで、次に蒸留酒へいきたいという時に、橋渡しとして浄酎を飲んでいただくのもおすすめです。
  • 中島さん なるほど。そのまま飲んでもいいですが、そういう味わい方もあるんですね。
  • 三宅さん そしてもう一つ面白いものがありますよ。浄溜した後に残った液体、これを見てください。

左が浄溜した後に残った液体。右は浄酎

  • 井上さん あれ?何かお醤油みたいな香りがしません?
  • 三宅さん これはアルコールが抜けた後の、お米のうまみ成分が凝縮された液体なんです。少し味見してみてください。
  • 井上さん すごーい! しょっぱさの中にうまみがあります。これは「飲める塩」ですね。醤油と塩のいいところ取りみたいな味わい。
  • 三宅さん まさにそうなんです。私たちはこれを発酵旨味調味料として商品化の準備を進めています。広島の「海人の藻塩」さんとコラボして味を調えているので、天然のうま味調味料として使えるんです。アルコールはゼロで、ご飯を炊くときに少し入れたり、鍋に入れたりすると劇的においしくなりますよ。
  • 中島さん うまっ! 第三の調味料って感じですね! 何かにつけて食べるのも良さそう。
  • 三宅さん イカの刺し身はよく合いますね(笑)。うまみ成分は日本で発見されたもので、海外では「Umami」として注目されています。将来的には、この調味料が売れることで酒蔵さんからもっと日本酒を買い取れる、そんな循環をつくりたいんです。
  • 中島さん すごいなー。完全に無駄がない。酒蔵さんもうれしいし、環境にも優しいし、最高の仕組みですね。
  • 三宅さん 次は熟成庫を紹介します。神石高原町は標高が高いので、夏でもひんやりしていて、熟成には最適な環境なんですよ。
  • 井上さん うわー、樽がたくさん! 雰囲気ありますね。
  • 三宅さん ここでは「浄酎」を新しいオーク樽に入れて熟成させています。日本酒の香りと、樽のバニラのような香りが合わさるんです。
  • 中島さん ここでどれくらい寝かせるんですか?
  • 三宅さん 半年から長いもので3年くらいですね。樽の中でアルコールと水がなじんで、角が取れていくんです。半年以上ですごく面白い熟成具合になりますよ。ぜひ香りを嗅いでみてください。
  • 中島さん うわあ、角が取れてる。丸くなってるのが香りだけで分かります。

「和製スピリッツ」として世界へ挑戦

  • 三宅さん 少し試飲を用意してみましょうか。色も美しい黄金色になっていますよ。
  • 井上さん ありがとうございます。色が完全にウイスキーだ。
  • 中島さん いただきます。あー、これは浄酎よりもウイスキー寄りだ。まろやかで、いっぱい旅をしてきている感じ。ウイスキー、スピリッツとか、いろんなお酒を楽しんでいる方にぜひ飲んでほしい。
  • 三宅さん 蒸留酒は世界で人気のある大きな市場ですが、私たちは日本酒の良さを持つ「和製スピリッツ」として、浄酎を世界に出していきたいんです。
  • 井上さん これはすごく可能性がありますね。日本酒のイメージが変わるかもしれません。
  • 三宅さん 実際にアメリカのロサンゼルスでは特に反応が良かったです。「日本酒は新鮮な方が良く、冷蔵保存して、早く飲まなきゃいけない」という常識を越えて、常温で保存できて、しかも熟成すると価値が上がるものなんです。
  • 中島さん なるほど、浄酎は時間を味方にできるお酒なんですね。
  • 三宅さん 2025年とか2026年のボトルを10年後に開けて「あの頃はね」みたいな会話を呼び起こすものになってほしいです。微力ながらこうして拠点を構えて、酒蔵が地域にある良さを伝えていけたらと思っています。

違和感にふたをしない。自分の心に従って進む

  • 中島さん お酒も味わったことだし、あらためて伺いたいんですが、まず社名の「ナオライ」ってどういう意味なんですか?
  • 三宅さん 「直会(なおらい)」という神事の言葉から取っています。神様にお供えしたお酒や食事を下げて、みんなでいただく行為のことで、人と人がつながり、日本酒が一番おいしく飲まれる瞬間だと思います。そんなありがたい日本酒の役割を考えたいとの思いで会社の名前にしました。
  • 井上さん すてきですね。でも、全く新しいお酒をつくるって、相当大変だったんじゃないですか?
  • 三宅さん そうですね。最初は「レモン」と「日本酒」で「ミカドレモン」という広島ならではのブランドをつくるところから始めました。でも、活動する中で、日本酒の蔵がどんどん減っていく現状を目の当たりにして、100年200年と続いた伝統を経済合理性だけでつぶすのではなく、何か新しい日本酒の生かし方があるんじゃないかと考えて、この低温浄溜にたどり着いたんです。
  • 中島さん なるほど、日本酒に新しい価値を吹き込むということですね。ここまで順風満帆に進みましたか?
  • 三宅さん 全然です(笑)。やはり「そもそも浄酎とは?」がスタートなので、今もコツコツ情報を発信して皆さんに魅力を知っていただく必要があります。また、私たちの業界では先に仕入れが必要で資金がいるのですが、ITやAI、エネルギーなどキラキラした分野がある一方で、日本酒業界は興味を持ってもらえないんです。投資家の方にも「あー興味ないからいいや」って相手にしてもらえなくて、本当に100人以上の方に断られましたね。
  • 中島さん 100人!? 厳しい世界ですね。
  • 三宅さん それだけじゃなく、つくったはいいけど市場の反応が良くないなど、会社も6回はつぶれかけました。こんな状態がいつまで続くんだろう、世知辛い世の中だなと思いましたが、それでも動き続けるしかないと思うんです。
  • 井上さん 6回も! リアリティーがありすぎて怖いです……。
  • 三宅さん でも、日本酒を再生させるにはこれしかないと信じてきました。それに不思議なもので、がむしゃらにやって苦労するほど、いろいろな方が助けてくれるんです。ある時、東京の赤坂で、ある投資家の方に試作品を入れたペットボトルを並べて説明したら、その場で「1500万円貸すので、広島で酒蔵をつくってください」って言われて。もちろん運に頼ってはいけないんですが、人のご縁にも恵まれました。
  • 井上さん そこからこの場所が生まれたんですね。
  • 三宅さん はい。技術から場所、商品、デザインまで本当に多くの人に助けられました。この酒蔵も神石高原町の役場の方のおかげで見つけることができ、設備も何もないところからスタートしたんです。
  • 井上さん ボトルのデザインもすごく印象的ですよね。これはどのようにして決まったんですか?
  • 三宅さん これはデザイナーの太刀川 英輔さんのデザインで、浄酎を見た時にインスピレーションが湧いたそうです。ボトルの形は浄溜した時のしずくがモチーフです。さらに日本のものづくりも表現したいとの思いで、キャップをはめる部分が真っすぐな世界的にも珍しいデザインなんです。飾りの部分は神社のしめ縄に付いている「紙垂(しで)」で、日本のお酒の精神性を表現したものになっています。
  • 中島さん なるほど、このデザインにもぜひ注目ですね。それとテレビのイベントでも優勝されたって聞きましたよ。やっぱりその「熱量」と、それを伝える「言語化能力」が人を動かすんでしょうね。
  • 三宅さん そう信じています。興味のない人を振り向かせるために必死でしたから。少しずつでも皆さんに知っていただけて、本当にありがたいです。
  • 井上さん これから創業する人へのアドバイスはありますか?
  • 三宅さん 「自分の違和感にふたをしないでほしい」ということです。私の場合「なんで酒蔵が減っていくんだろう」という小さな違和感。それにふたをせず、なんとかしなきゃと考えて深掘りしていったら、浄酎という答えにたどり着きました。自分が興味あること、「あれ?」と思うことを大事にしてほしいですね。

広島から全国、世界へ。「浄酎モデル」の展開

  • 中島さん これから先、ナオライはどうなっていくんでしょうか?
  • 三宅さん この広島の神石高原町で生まれた「浄酎モデル」を、全国、そして世界へ輸出したいです。実は今、石川県の能登や長野県で、その土地の日本酒で浄酎をつくるプロジェクトが進んでいます。「NOTONaorai (能登半島)」「NAGANONaorai (長野)」といったかたちで、各地の酒蔵と連携して、土地ごとの浄酎をつくりたいんです。
  • 井上さん ご当地浄酎ができるんですね。それは楽しい。
  • 三宅さん それに、この「浄酎モデル」は酒蔵さんにとってなるべくデメリットがない形でご提案しています。お酒を買い取らせていただきますし、新しいブランドとして日本酒とバッティングするわけではないので、お話を持っていくと「面白そうだね」と言ってくださるんです。
  • 中島さん いやーすごい。みんなが幸せになる仕組みですね。
  • 三宅さん そうした国内での展開と同時に、海外も見据えています。ロサンゼルスの方に言われた「日本の方が当たり前に食べる白米一杯に、どれだけ価値があるか理解してください」という言葉がすごく印象的でした。その言葉で、日本のお米やお酒は世界に通用するとあらためて実感しました。
  • 中島さん 逆に海外の人から言われるんですね。身近なものほど、ありがたみを忘れてしまいますからね。
  • 三宅さん そうなんです。それで変化球ではなく、ストレートに浄酎で海外へ打って出て、「JOCHU」という新しいカテゴリーを確立して、世界中で飲んでもらえるブランドにしたいと思っています。
  • 井上さん 広島からどんどん世界へ広がりますね。ナオライさんがつくればつくるほど、日本酒の未来が明るくなりそうです。
  • 三宅さん もっと言うと、このモデルはお米の価値を引き出すので、稲作文化がある国ならどこでも展開できると思います。世界中で日本発のビジネスモデルとして、稲作の価値を高められるとうれしいですね。
  • 井上さん 確かにそうだ。日本だけでなく、お米をつくっている国はたくさんありますもんね。
  • 中島さん 日本の酒文化を守るだけじゃなく、世界にも広がる。同時に大注目のうま味調味料までつくれる。すごい事業だなあ。今日はおいしいお酒も飲めたし、いい話も聞けたし、最高でした。ナオライの挑戦、これからも応援しています。
  • 三宅さん ありがとうございます。ぜひまた飲みに来てください!

神石浄溜所
広島県神石郡神石高原町小畠1729-3
本社
広島県呉市豊町久比3960番三角島




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