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独自の視点で読み解く㉓

農業廃棄物がみどりを育み、地球の未来を救う。
「株式会社トロムソ」

尾道市因島。造船業のイメージが強いこの島で、農業廃棄物の可能性に着目し、世界を舞台に社会課題の解決に挑むのが、株式会社トロムソです。
もみ殻を固形化する技術から発展し、バイオ炭の製造装置開発から営農指導、カーボンクレジット化まで一貫した事業モデルを展開。アフリカや東南アジアをはじめ、世界が直面する資源の有効活用や農業の生産性向上などに貢献しています。
これらの事業が認められ、2024年「ひろしまユニコーン10」プロジェクト、2025年経済産業省の「グローバルサウス未来志向型共創等事業費補助金」に採択されています。
異色の経歴を持つ3代目社長・上杉正章氏に、会社の設立から海外進出のきっかけ、そして事業を通じて目指す未来について話を伺いました。

株式会社トロムソ 代表取締役 上杉正章さん

尾道市因島出身。Uターンをきっかけに調理師から転身。2019年、会社が解散の危機を迎えた際に1億円の負債ごと事業を承継し、成長へと転じさせる。アフリカ、アジア、そして世界へと駆け巡っている。

「海の技術」から「陸のものづくり」へ

  • 記者 トロムソは熱交換器メーカーから分社して1994年に創業されたと伺いました。その経緯についてお聞かせください。
  • 上杉さん はい。私は創業者ではなく、事業を継承した実質的な3代目になります。私が生まれた1975年頃、因島は造船でとても栄えていました。夏になれば商店街の土曜夜市は人でごった返し、当時の因島市の人口は約5万人強でした。しかし、私が10歳の頃に造船不況が訪れ、日立造船さんの撤退を機に人口はどんどん減少し、今では2万人弱です。
    トロムソの母体であるハリソン産業因島は、熱交換器のメーカーだったため、造船不況の影響を受けながらも倒産は免れました。ただ、創業者は造船一辺倒では持続的な経営や雇用は難しい、海の技術を陸のものづくりに応用して新しいチャレンジはできないかと考え、1994年に株式会社トロムソを創業。創業メンバーは、造船会社などを定年退職した団塊世代の技術者4名でした。
  • 記者 なぜ「もみ殻」に着目されたのでしょうか?
  • 上杉さん 創業者が農家から聞いた「お米を作った後のもみ殻の処理に農家が困っている」という話がヒントになったそうです。稲作地帯で副産物として出るもみ殻を有効活用できないかというところから機械の設計開発が始まり、トロムソの農業廃棄物の利活用という取り組みがスタートしました。そして、もみ殻をすり潰し圧縮成形・加熱して作られる固形燃料「モミガライト」を製造する「グラインドミル」が製品化されたのです。

異業種からの転身。未経験から始まった挑戦!

  • 記者 上杉社長が事業に参画されたのは2011年とのことですが、それまでは全く違うお仕事をされていたそうですね。
  • 上杉さん 高校卒業後からずっと調理師をやっていました。身内に飲食店の経営者が多く、ごく自然な流れでその道に進み、大阪で就職していました。転機は、因島で飲食店を営んでいた母親の体調が優れなく、島へ帰ろうと思ったことがきっかけです。その時、子どもの頃からかわいがってくれていた創業者から「新しいことを始めてカタチになったから、一度会社を見に来い」と誘われたのです。
  • 記者 見学されてみて、いかがでしたか?
  • 上杉さん もともと好奇心が強い性格なので、もみ殻を活用する事業なんて聞いたことも見たこともなく、非常に面白いと感じました。見学に行った時、一番若い社員の方が65歳で、皆さん大先輩でしたが、とても良い職場だとすぐに分かりました。見学後、創業者に「明日から来い」と言われ、翌日から働き始めました。それが2011年9月のことです。
  • 記者 すごい決断力ですね。全くの未経験からのスタートだったのですね。
  • 上杉さん はい。工具の使い方すら分からない状態からのスタートでした。最初はひたすら機械の組み立てですね。組み立てを通じて機械の構造を知り、お客さまにうちの機械のどこが良いかを自分の言葉で説明できるようになりました。東北地方へトラックで機械を運び、機械を動かしながら機械の説明をしたり、JICA事業で機械の組み立てをタンザニアで行い、地の人に技術移転をしたりなど、3〜4年ほど現場を経験した後、営業にも携わるようになりました。

アフリカとの出会いが事業を加速させた

  • 記者 トロムソの事業は国内だけでなく、海外でも積極的に展開されています。そのきっかけは何だったのでしょうか?
  • 上杉さん 2012年のお盆休みに、ふらっと知らないコンサルタント会社の方が訪ねてこられたのです。今でも一緒に仕事をしていますが、彼は元々弊社のことを知っていて、広島出身の奥さんと里帰り中に立ち寄ったそうです。彼が「この技術はアフリカで通用する。一緒にJICAの事業に申請しましょう」と声をかけてくださったのが全ての始まりでした。
  • 記者 本当に偶然の出会いだったのですね。
  • 上杉さん 正直、当時は創業者も私も、海外でビジネスを展開するなんて全く考えていませんでした。最初は、地方の小さな会社がアフリカに挑戦しているという姿勢がPRになれば、というくらいの考えでした。しかし、2013年にJICAの案件化調査で初めてタンザニアに行ったとき、衝撃を受けました。アフリカでもこんなに米を作っていて、日本と同じように、大量のもみ殻が活用されずに廃棄されている。アフリカはこれから世界一の人口になると言われていましたから、ここにわれわれの技術の需要があり、大きなチャンスがあると直感しました。
  • 記者 アフリカでは具体的にどのような事業を展開されたのですか?
  • 上杉さん 最初、もみ殻という農業廃棄物をエネルギーにする事業を行っていました。アフリカの未電化地域では、人々が調理のためにまきを使い、森林伐採が進んでいます。そこで、もみ殻を固形燃料にすることで、森林伐採を減らせるのです。われわれはこれを「緑を守る事業」と呼んでいます。タンザニアから始まり、ナイジェリア、マダガスカル、セネガル、ガーナへと事業は広がっていきました。

みどりを「守る」から「育む」へ。炭が開く可能性

  • 記者 そして現在、トロムソは新たなステージに進んでいると伺いました。
  • 上杉さん はい。「みどりを守る事業」を発展させた「みどりを育む事業」に力を入れています。これは、もみ殻だけではなく、ピーナツやコーヒーの殻、木の樹皮といったさまざまな農業残渣を「炭(バイオ炭)」にして農業に活用する取り組みです。
  • 記者 炭ですか。なぜ炭に注目されたのでしょうか。
  • 上杉さん これもご縁で、4年前に鳥取大学で炭の農業利用を専門に研究されている西原教授と出会ったことです。われわれは機械メーカーなので農業の知識はゼロ。先生から、炭を土壌に入れることで作物の収量が上がり、化学肥料を削減でき、さらに製品の付加価値も高まるという技術を教えていただきました。炭を土壌に入れると、炭素が長期間土に貯留されます。これが「カーボンクレジット」として価値を持つのです。つまり、機械を売るだけでなく、私たちが持つ炭の活用ノウハウ(営農指導)を提供し、さらにカーボンクレジットを創出して売却もできる。キャッシュポイントが一つから三つに増えるわけです。
  • 記者 それは画期的なビジネスモデルですね。
  • 上杉さん 農家さんにとっては大きな収益向上につながります。効果があれば、農家さんは来年も使ってくれます。そこで初めて持続的なカーボンクレジットの創出につながるのです。

負債1億円からのリスタート。社会課題の解決が原動力

  • 記者 上杉社長が代表取締役に就任されたのは2019年。大変な状況からのスタートだったそうですね。
  • 上杉さん 私が事業を引き継いだ時、会社には1億円以上の負債がありました。創業者から一度は他社にM&Aされたのですが、その会社の経営が悪化し、トロムソも解散するという話が出た時に、「私に売ってください」と申し出たのです。私はこの会社が好きだったので、負債を全て背負う覚悟で引き受けました。社長としてのキャリアは、まさにつまずきからのスタートでした。
  • 記者 その逆境を乗り越え、事業を成長させてこられた原動力は何なのでしょうか?
  • 上杉さん とにかく、やっていることが楽しいんです。とんでもない困難もありますが、それもひっくるめて楽しい。そして何より、お金もうけがしたいというより、「社会課題をどう解決できるか」を常に考えています。例えばSDGsの目標がありますが、私は全ての根幹は4番の「質の高い教育をみんなに」にあると思っています。教育が行き届けば、貧困もなくなる。われわれの「緑を育む事業」も、営農教育を提供することで、農家の収入を増やし家庭を豊かにする。そうすれば、親は子どもを学校に行かせることができる。全ての事業が、社会課題の解決、特に教育へつながるように設計しています。
  • 記者 グローバルな視点も非常にユニークだと感じます。
  • 上杉さん 2013年にタンザニアに行っていなければ、今の考えはなかったでしょうね。現地に行き、自分の目で見て、全く違う環境で生きる人々の考え方に触れることが何より重要です。日本のスタートアップも、もっと海外に出ていくべきだと思います。

仲間と目指すIPO、そしてその先へ

  • 記者 今後の目標についてお聞かせください。
  • 上杉さん 会社としてはIPO(株式公開)を目指しています。これはお金もうけのためではなく、自分たちのやりたいこと、つまり研究開発や人材育成をさらに加速させるための資金を得るためです。
    そして、一番のやりがいは「仲間が増えること」ですね。われわれの事業に共感し、ヤマハ発動機から出向してきてくれた方や、母国を良くしたいと集まってくれるアフリカや東南アジアの優秀な若者たち。そういう協力者がいるから今のトロムソがあります。
    よく「参入障壁をつくれ」と言われますが、私はそうは思いません。うち一社で世界中の課題を解決できるわけがない。みんなでやればいい。壁を作るのではなく、仲間を増やして、共に持続可能な社会を作っていく。それが私のやりがいです。



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