独自の視点で読み解く⑥
「SESSION'S BREWERY(セッションズ ブリュワリー)」
2018年4月、「広島から全国区のクラフトビール」を目指して、広島市中区江波に「SESSION'S BREWERY(セッションズ ブリュワリー)」は誕生しました。ビールづくりは全くの初心者だった代表取締役社長の髙岡隆一さんが、約15坪の小さな工場に最低限の設備だけで立ち上げたクラフトビールの醸造所です。
その原点は、共同設立者である新江克樹さんと、2015年に広島駅西側(通称:エキニシ)で始めたビアホールにありました。ビールと唐揚げで人気を博しており、また、いつしか思い描いた「自分たちでビールをつくってみたい」という夢をも実現されました。その後、エキニシの火事をきっかけに店舗を移すこととなり、クラウドファンディングで得た資金で醸造設備も併設した新店舗を、広島市中区十日市にオープン。手間暇を惜しまず、おいしさを追求し続けるSESSION'S BREWERYは、広島のクラフトビールシーンを盛り上げ、全国展開へ挑戦し続けています。
今回お話を伺ったのは、広島のローカルタレント中島尚樹・井上恵津子夫妻。醸造所を見学した後、併設するお店でクラフトビールを飲みながら、創業の経緯から苦労話、将来の展望まで楽しくインタビューしました。
300万円から始めたビールづくり。
クラウドファンディングでステップアップ!
- 中島さん ビールを楽しむ前に、実際につくっている醸造所を見学させていただいてもいいですか?
- 髙岡さん もちろんです。まず流れとしては、寸胴に麦芽を入れて煮出した後、発酵タンクに移して糖からアルコールに変えます。私たちはベンチャーであり醸造規模は小さいので、1回の醸造量は100ℓから150ℓほどです。最初に江波で始めた時はこの冷凍ストッカーを使って発酵していました。
- 井上さん え~!これですか?
- 髙岡さん ホームセンターで売っている冷凍ストッカーです。岩見麦酒さん(島根県江津市)が考案された方法で、最低限の設備で低コストを実現できる醸造法です。
- 中島さん これを使って、どれぐらいの資金でビールづくりが始められるのですか?
- 髙岡さん 1台約3万円の冷凍ストッカーが5台で、寸胴鍋や貯蔵庫などを合わせて300万円ぐらいに抑えました。その後、2020年に挑戦したクラウドファンディングで、今の発酵タンクを増設しています。
- 中島さん ビールができあがるまでにどれぐらいの日数がかかりますか?
- 髙岡さん ビールの種類にもよりますが、エールビールで2週間ぐらいです。うちはラガービールもつくっているのですが、それは1~1.5カ月ぐらいかかります。非効率ですが、ラガービールをやりたくてこの仕事を始めた部分もあるので、仕方ないですね(笑)。
- 髙岡さん 麦芽の原材料はドイツやベルギー、イギリスなどすべて外国産を使い、大麦や小麦など麦の種類もたくさん用意しています。少量でも手間暇を惜しまず、おいしさを追求しています。
- 井上さん すごく詳しく見せていただいてびっくりしました!
中島さん もう飲みたくなってきましたよ。お店で飲みましょう!
- 中島さん いろいろな種類がありますが、どれがおすすめですか?
- 髙岡さん 開業当初からつくっているのは、「広島レモンエール」と「十日市エール」の2種類です。あとはその都度、限定品を入れ替えています。
- 井上さん グレープフルーツやストロベリーラズベリー、バニラなどもあって、カクテルっぽい感じですね。
- 中島さん じゃあ、「十日市エール」と「ピンクムーン」をお願いします。
- 髙岡さん エキニシでやっていた時からの名物・唐揚げと一緒にどうぞ。
- 中島さん 十日市エールおいしい! 普通のビールと全然違いますね。色は驚くほど濃いけど、意外と苦味がなくてマイルドですね。
- 井上さん ピンクムーンもすごくおいしい! ビールがちょっと苦手な方でもフルーティーで飲みやすいと思います。香りがとってもいいですね。
創業資金なし、失敗を考えずに飛び込んだ。
共同経営者とは役割をすみ分ける。
- 中島さん 創業の経緯を教えてください。
- 髙岡さん 同じ飲食の会社で働いていた先輩と2人で、2015年にエキニシで、共同経営という形で創業しました。どこにでもある当たり前の食べ物や飲み物にこだわり、それに特化したお店をつくりたいという思いで、「唐揚げ」と「ビール」をコンセプトに立ち上げました。当時、私は35歳、先輩は38歳でした。
- 井上さん まさにこの唐揚げですね。作り方は現在も同じですか?
- 髙岡さん そうですね。名前は変わりましたが、作り方はエキニシの頃と変わりません。一日ほど漬け込んでいます。
- 井上さん めっちゃおいしい!味が染みてますねー。
- 中島さん 衣だけじゃなくて、中まで染み込んでいて、ビールと一緒に食べると最高です。最初、開業資金はあったのですか?
- 髙岡さん ほぼ融資です。なんとか1店舗つくるところからスタートしました。
- 井上さん かなり大変だと思うんですが、それでも創業しようと思ったのはなぜでしょう?
- 髙岡さん 10年以上飲食業をやってきて、自分のやりたいことを100%表現できる場所をつくりたいという気持ちが元々ありました。失敗したときのことはあまり考えなかったから、勇気をもって飛び込めたのでしょうね。
- 中島さん 江波でブリュワリーを始められたのは、どういうタイミングですか?
- 髙岡さん エキニシで創業してから3年後、2018年のことです。エキニシにはたくさんのお客さまに来ていただいていたのですが、経営的にはずっと苦しくて。肉割烹という和食業態のお店も開店したのですが、その出店費用も融資を受けるなど、ずっと赤字続きでした。そんな中でも、『いつしか自分たちでビールをつくりたい』という夢だけは持ち続けており、2018年の酒税法改正を前にして、発泡酒製造免許を取得しようと決めました。物件探しに苦戦する中、私も先輩も江波出身で、エキニシへ出勤する途中にたまたま見つけたのが江波の物件でした。
- 中島さん 十日市に移転されたのは?
- 髙岡さん 2020年に挑戦したクラウドファンディングでタンクを購入し製造量も増え、工場が手狭になったので、新しい物件を探していました。この時も偶然、十日市を車で通りかかって見つけたのです。十日市という場所は、近隣にスタジアムができたり、球場跡地がリニューアルしたり、インバウンドの人が多く宿泊したり、という好条件がそろっており、私たちがやりたいことができると考えて決めました。
- 井上さん すごく戦略を立てていらっしゃるのですね。
- 髙岡さん いやいや、感覚です。街の状況を見て、落とし込むというプロセスを肌感覚でやっているのかもしれません。
- 中島さん 共同経営していると、ぶつかることはありませんか?
- 髙岡さん もちろん、当たり前のようにありますが、チームでやっているからこそできることがある、という気持ちをいつもベースにしています。二人ともいいものを作りたい、お客さまを喜ばせたいという思いがあるので、方法論として何を選択するか、ぶつかることはありますが、そこは役割分担で乗り切っています。相方はデザイン業務や空間プロデュースに携わり、私は現場に立ってお客さんと向き合ったり、商品やメニューを開発したり。うまくすみ分けができていると思います。これも時間をかけてできたという感じですね。
広島にこだわるビールと全国へ向けたビール。
多角的に攻めることで利益を生む。
- 中島さん 最近、クラフトビールで創業される方が増えてきていますが、差別化はどうされていますか?
- 髙岡さん それはとても悩んでいて、昨日もちょうど先輩と話したところです。クラフトビールも地ビールと呼ばれていた時代は、地場の物を使って観光客に訴える商品でした。今はどこでも何でもつくれる時代になって、場所はそこまで大事でなくなっています。大手企業にもかないません。だからこの場所で、観光客を意識した「十日市エール」や「広島レモンエール」などもつくりながら、ホップが効いているものや果物がたくさん入っているものなど、流行を取り入れたビールも作っていきたいと思います。広島のものだけにこだわって、広島押しのビールだけで終わりたくない。どんな人にも「このビール、見たことがあるよね」と言われるのが夢です。まずは多角的に両方から攻めて、その後に自分たちが作ったクラフトビールが当たり前になれば、一番幸せかなと思っています。それまで何とか食いつないでやり続けます。
- 中島さん そのためには、ブランディングも大切ですね。
- 髙岡さん まず知ってもらわないといけないので、ブルーノくんというアイコン的なキャラクターを作りました。少しアメリカンテイストが強めで、ワイルドさが狙いです。
- 井上さん かわいいですね。いろいろ大変なことがあるでしょうが、一番大変なことは何ですか?
- 髙岡さん 基本的なことですが、利益を出すことが一番難しい。利益を出し続けないと継続できないのに、そこが全然できていない状態が続いています。良い材料を使わなければコストを落とせるし、みんなで力を合わせてやろうと思わなければ人件費を落とせます。でも、それはしたくない。物価もどんどん上がっていますので、もっと工夫してやらないといけないと思っています。
- 中島さん その苦労は、情熱で乗り越えられていらっしゃるのですか。
- 髙岡さん そうですね。がんばっていたら、今日のように来てもらえて、続けてきて良かったとしみじみ噛みしめています。諦めていたら今日という日は来なかったです。
- 中島さん そんなことを言ってもらえると本当にうれしいです。泣きそうになります。
コロナ禍を乗り越えてリスタート。
振り返りを行い、情熱をもって挑戦し続ける。
- 井上さん 今後の展望を教えてください。
- 髙岡さん 直近の2、3年はずっとコロナ禍でかなり苦戦しました。2020年には、日本ビールの最高峰の品評会「ジャパン・グレートビア・アワーズ2020」で「Bruno SMaSH」が金賞を受賞したのですが、その栄誉をコロナ禍で生かせませんでした。だから、これからがリスタートです。この場所を拠点として、広島県の方に広く知っていただき愛してもらい、IPAやスムージーなどの特殊なビールは、ネット販売を通じて首都圏へ攻めていきます。
- 井上さん カッコいい! 攻めるのですね。守りはだめですか?
- 髙岡さん これだけ守ったので、これからは攻めたいですね。もちろん守らないといけないものもたくさんありますよ。
- 中島さん では、とても大切な人、絶対に成功してほしい大切な人が創業したいと言ったら、どんなアドバイスをされますか?
- 髙岡さん 『振り返り』です。やってきたことを振り返って、それが成果につながっているかどうか確認すること。1年目が終わったら決算書などに目を通して、2年目に進んでいく。過去を振り返れば、弱点が分かり、失敗を修正できます。私は振り返りをおろそかにして、勢いでやってきたところがあるので、それが積もり積もって、今すごく苦労しています。自分の弱い部分です。
- 中島さん かなり堪えていますね〜。食い気味で答えてくださったので(笑)。でも、この言葉は心に響きました。
- 井上さん 経験者の話は本当に参考になりますね。中島さんは、自分の出演したテレビを見ますか?
- 中島さん 見ない見ない! 自分ではすごい気持ち良くしゃべって、出演者の方もいい感じにうなずいてくれるんですけど、テレビで見ると全然盛り上がっていなくて…あれっ?みたいな。
- 井上さん ダメです、それが現実です。ちゃんと振り返って!
- 中島さん はい、これからはぜひ振り返りをします。髙岡さんは、そんなご苦労の中でも続けていらっしゃるのはなぜですか?
- 髙岡さん 最終的には、私自身が人を喜ばせることが好き、人の笑顔を見ることが好きで、人が喜んでいる姿を見て、それを快感と思えるからでしょうね。
- 中島さん その気持ちを大切に、今後ともぜひがんばってください!
- 井上さん またおいしいビールを飲みに来ます! ありがとうございました。
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