独自の視点で読み解く

独自の視点で読み解く

独自の視点で読み解く③

瀬戸内の小さな島を舞台に、独自のアイデアで暮らしを彩る若者たちがいます。大崎下島・久比地区で、新しい試みにトライする「一般社団法人 まめな」の仲間たちです。以前紹介した訪問看護事業の「Nurse&Craft」「まめな食堂」に続いて、今回は「バー邂逅」を取材しました。

「バー 邂逅(かいこう)」

 大崎下島・久比(くび)地区を拠点に、これからの暮らしや地域の在り方を模索する一般社団法人まめな。これまでに「Nurse&Craft」に続いて「まめな食堂」を取材しました。今回ご紹介するのは2022年7月にオープンしたばかりの「バー 邂逅」です。「まめな食堂」から徒歩2分ほどの場所にあり、元みかん農家の古民家を改修した長屋門の1階が「バー 邂逅」で、2階が図書館になっています。「Nurse&Craft」と生涯学習の場「あいだす」に併設されています。

 「生涯学習の場にバー?」と不思議に思われるかもしれませんが、一般的にイメージされるバーとは趣向が異なっています。ただお酒を飲むこともできますが、例えば本(2階の図書館)で得た知識をバーで共有したり、そこでの会話から生まれた新たな問いをさらに調べたりといった飲み方もできます。さらに特徴的なのはお勘定で、ここで飲むお酒の代金はペイフォワード制(お客さんが支払い能力に応じて自由に金額を決める)というもの。その支払われたお金は、新しいお酒の買い足しに使われていき、次の方へとゆるやかな循環が続いていきます。

 バーの代表者である後東さんは広島市内の大学に通う現役大学生。2021年の春休み、漆喰塗りのワークショップに参加したのをきっかけに、定期的に久比地区に通うようになりました。
 「大学で教育を学んでいることもあり、“学びの場”というワードに引かれました。出身は呉市ですが、ワークショップに参加するまでは、久比(くび)という場所も読み方も知りませんでした。この島に来るようになってから、限られたモノを大切にする暮らしや、自分でモノを生み出す手仕事に興味を持つようになったんです。まめなとの関わり方がなんとなく見えはじめたのも、そのときの試行錯誤がきっかけでした」

バー 邂逅 代表者 後東 航さん

呉市出身。平日は大学に通い、休日は「島の寺子屋」のスタッフとして、島の子どもたちと過ごしている。2022年の夏は島に長期滞在し、「あいだす」に隣接する空き家を自ら改修。「バー 邂逅」は令和5年春からの本格営業を目指している。

手仕事の向こう側にある、
地域の暮らしや人々の絆

 「あいだす」の敷地には、子どもたちがペイントした大きな庭石、島の人たちが持ち寄った遊び道具、どこからともなく集まった建築廃材など、いろいろなモノが所狭しと散らばっています。その中でもひときわ目を引くのが、廃材で作られた手作りの椅子たち。これらはすべて後東さんの手によるものです。
 「この島の人たちはみんなで寄り合って世間話をする際、みかんカゴをひっくり返して座るんです。そういう使い方もできるのかと感心する一方で、どこか座りづらそうにも見えました。みかんカゴでは座面が低過ぎるからでしょうね。そこで、座りやすい高さの椅子を作れば、みんなに喜んでもらえるんじゃないかなと思ったんです」
 後東さんのちょっとした思いやりから始まった椅子製作。廃材を使用したので材料費は0円!製作する際に何度も座りながら、最高の座り心地を追求したそうです。出来上がった椅子に、地域の皆さんが腰掛けて談笑しているのを見た時は、なんとも言えない誇らしい気持ちになったといいます。
 「その後もいろいろな形の椅子を作って置いておくと、椅子に腰掛けておしゃべりを始める島のおばあちゃんや、背もたれに体を預けて居眠りをするおじいちゃん、野外ライブで利用される島外のお客さんなど、さまざまな使い方がされるようになりました。単に椅子を作って置いただけですが、そこから見えないコミュニケーションが広がっていったように感じます」
 こうした椅子づくりを経て、後東さんは「まめなは自分にとって、人との関わり方を考える場所だ」と認識するようになります。彼の思いやりと行動力が、椅子という“モノ”になって、人々のつながりを生んでいます。

関わりの中から学びが生まれ、
暮らしをより豊かに深めていく

 その後も、後東さんは手仕事にますます熱中していきます。最近では島の大工さんに手ほどきを受けながら、「あいだす」に隣接する空き家のリフォームにも挑戦中だとか。「あいだす」の様子を見た空き家の所有者さんが、「ぜひわが家も利用してほしい」と申し出てくれたことがきっかけで、島に常駐する際の住処にしようと奮闘されています。

 このように手仕事をきっかけに、後東さんのまわりではさまざまな関わりや、かけがえのない学びが生まれています。後東さんは、この島の暮らしぶりがうかがえるエピソードを披露してくれました。
 「ある日、普段履きとして使う古い下駄が余ってないかなと、近所のおばあちゃんに聞いてみたんです。すると、おばあちゃんは“あるよ!”と言って、数日後びっくりするほど大量の古い下駄を持ってきてくれました。島には欲しいと思ってもすぐに手に入るお店がないので、とてもモノを大切にする暮らしが根付いています。たとえ古くなっても簡単に捨てたりしないんです」
 関わりが希薄な都会では、人々の暮らしの輪郭を把握するのも困難ですが、この久比の地ではささいな出来事をきっかけに、豊かな暮らしが見えてきます。リフォームの指南を受けている大工さんは、後東さんがいま最もリスペクトする手仕事の達人。後東さんも手仕事を通じて、まめなに興味を抱いてくれる人、新しいアイデアを提供してくれる人など、新しい関わりをつくり、大切にしていきたいと語ります。

まめなは、それぞれの自己実現を支援する、
地域貢献の新しい姿

 「バー 邂逅」の後東さんやパティシエの佐々木さんをはじめ久比に集う人々は、「まめな」を出発点に、自分のやりたいことをどんどん形にされています。自己実現を通した、地域貢献の新しい姿を実現するために、今後は「まめな」を「コモンズ」にしていく構想があるそうです。
 「コモンズ」とは誰かの私有物ではなく、みんなの共有財産とする考え方です。例えば一人一人のやりたいことの探索・探求・実践をサポートし、そこから育つ事業や人が何らかの形でまめなに還元し、さらに地域に必要な取り組みや次の挑戦者の支援へとつなげていく、といった新しい地域の姿です。
 この3年間の活動の中で、2年前にインターンでやって来た大学生は、まめなで過ごすうちに、農家となることを志し、耕作放棄地を開墾することで久比の畑を守り続けています。また、別記事で紹介されている「Nurse&Craft」も、看護師さんたちが地域に深く関わるための拠点をつくり、収益の一部をまめなに還元しています。さらに久比の対岸、三角島に本社を置く「ナオライ」では、琥珀焼酎という島のレモンを使った新しいお酒を全国に向けて出荷する事業が育ってきています。
 また遠く首都圏からも、東京に本社を置く総合商社が法人会員となってくれるなど、地元だけではなく一緒にまめなを育てたいと感じてくださる方々から寄付金が集まるようになってきました。まめなでは、地域を持続していく上でこうした取り組みが欠かせず、久比における地域貢献の在り方は、100年後の未来だと考えています。後東さんのやりたいことも、島の未来とどう関わっていくか、楽しみは膨らむばかりです。

手間ひまかけてゆっくりと
根付かせたい、自分らしい創業の在り方

 現在、「バー 邂逅」は代表者の後東さんが学生であるため、営業は来年の4月まで予約制となっています。カウンター横の棚には、おしゃれな洋酒の瓶がずらりと並んでいますが、実のところ、後東さん自身はお酒がまったく飲めないそう。無謀とも思える挑戦に踏み切ったのは、船板を利用して作られたバーの店内を見たときに、「こんなにすてきなお店を誰か他の人がやるくらいなら、自分がやりたい!!」と強く思ったからだそうです。お客さんがいない時は、まめなのスタッフに付き合ってもらい、カクテルづくりの練習に励みます。

 そしてお酒の棚の下段には、カレーづくりにいそしむ後東さんがコツコツ集めたスパイスが並んでいます。その数、なんと100!その研究成果は100種類のスパイスカレーという形で、卒業アルバムに収められる予定です。見せていただいたスマホの中には、実際に作ったカレーの写真がずらり。圧巻です。
 大工仕事やカクテル、スパイスから得た知識は、やがて新たな気付きやアイデアとなり、人々との関わりの中で生かされることでしょう。

 大崎下島・久比地区では、ようやくまめなの思いが根付き、新たな活動が芽吹き始めています。「まだまだスタート地点だ」というスタッフたち。「もっと遠い未来へ歩んで行くためにも、あわてずゆっくり、みんなで手間ひまかけながら、コモンズを育てていきたいと思います」
 まめなの取り組みに共感し、自分らしいやり方で創業をしたいと考える皆さん。ぜひ一度、ここでの暮らしを体験してみるのはいかがでしょうか? 目からウロコの新しい価値観が、あなたの創業に対する考え方を変えるかもしれません。

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